48.

エル・フィリオンの玉座の間に召還されたのは、一人の女性だった。我々の世界の女性と少しの変わりもない。いや、むしろ一般のレベルははるかに超えた美貌を備えている。形まで伸びた黒髪、りりしい眉。やや釣り目がちだがいたずらっぽさを感じる瞳は、無邪気なかわいさも感じさせる。

唯一その女性は、不幸にも右腕がないらしく、そのせいで多少歩き方にぎこちなさを感じる。

彼女は進み出て、「ナタリー・アレス、参上いたしました。如何なる命も御意のままに」

それに答え、

「御苦労、アレスよ。早速だがお前には異世界に飛んでもらいたい」

「異世界とおっしゃいますと……」

「うむ。この世にはこのウォーリピアの他にも別の世界があり、高度な文明を持つ人間が住んでいる」

「なんと……」

アレスが驚きの声を上げた。エル・フィリオンはかまわず続ける。

「そこに住む紫堂憂弥なる人物が、どうやらライナー・フルのレヴィ・ストーンを持っているらしい」

アレスは「あのサラマンダーが奪ったレヴィ・ストーンを、なぜそのような者が……」と尋ねた。

「詳しいいきさつはわからんが、私のレヴィ・ストーンから読み取れる範囲では、どうやらその男、サラマンダーの影とも言うべき男のようだ」

「影……」

呟きが漏れた。

「異世界にはお前の影もいる。ウォーリピアと異世界には非常によく似た性質の人間が存在するらしい。見た目も中身も、そしてその運命もまたよく似ている。つまりその紫堂憂弥なる者は、我々が漆黒の悪魔と呼んでいた、ウォーリピアでも一、二を争うレヴィアであるサラマンダーと、同程度の実力を持っていると考えるべきであろう」

「サラマンダーと同程度……」

アレスの表情が、これまで以上に引き締まる。

「すでに紫堂憂弥はライナー・フル・レヴィアス隊のアデプトなる男を倒したようだ。しかもサラマンダーからもらい受けたタスクを初めて纏ったその日に、だ」

「なんと……。私など初めてタスクを頂いた日など、うまく飛ぶのもままならなかったというのに……」

「しかし案ずる事はない。ライナー・フル亡き今、名実共に我がクロスボーン・レヴィアスが最高のレヴィアス隊だ。中でも屈指の実力を誇る幻影のアレスが出向くとあらば、サラマンダーとて恐るるにたらん」

エル・フィリオンの言葉に「ありがきお言葉」とは言いつつも、「ですが、慎重に事に当たるべきでしょう。なんと言ってもあのサラマンダーは、たった一人でヒルベリアスの街を占拠したほどの強者でございます。その影もかなりの実力を持っているに違いない」

「よくぞ言ったアレスよ。ただし、所詮はサラマンダーの影。運命も似通うというのなら、長生きはできんということだ。しかし失敗は許されん。レヴィ・ストーンを持たずして、二度と再びウォーリピアの太陽を仰げると思うな」

エル・フィリオンは続けて「次元の隙間をくぐり、異世界へ飛べ。そして紫堂憂弥を探し出し、レヴィ・ストーンを見事持ち帰るのだ」

「御意」

アレスはそう言うと玉座の間を後にした。エル・フィリオンはそれを見送ると、傍らのボイジャーに耳打ちをした。

「ユイナル・・・ですか?」

ボイジャーは聞き返す。エル・フィリオンは無言で頷いた。