47.
「起きろ憂弥。時間だぞ」
昨日に引き続き、あまりにもいつも通りの朝に憂弥はその場で声を上げて笑ってしまった。
「なぁに、気持ち悪い」
深紅は言いながらも、いつも通りの様子の憂弥を喜んでいた。
彼女にとっても、ここ最近の憂夜の様子に対して、少なからず抱いていた不安がようやく薄れつつあった。
「着替えるから出てけよ」
「ふんだ。早くしろよ」
深紅が出て行くのを見送って憂弥考えた。
その後、特に日常に大きな変化はない。リックもあれ以来姿を見せず、全ては夢の話のようだ。とは言え、手の平に今も残る戦いの感触。ここ数日の事件は間違いなく現実だ。夢や幻で片付けられるものではなかった。
人が死んでいる。深刻に考えれば叫び出したいほどの重圧。その重さが、逃避したい衝動を抑えこんでいた。
それにしてもわからないことだらけだ。
リックとの会話でも不明確な部分が残る。だが、憂夜の直感は信じろといっている。今はただ、サラマンダーの言葉を信じてみようと。命がけで自分にレヴィ・ストーンを託したサラマンダーを、二つの世界の未来を託すと言ったサラマンダーの言葉を信用しようと。
少なくとも自分は狙われている。やらなければやられるのだ。まずは生き残る事だけを考えようと。
ふざけ合いながら学校へ向かう道で、深紅が笑う度に憂弥の決意は強くなっていった。
「どうしたの?なんか考え込んだ顔して」
不覚にも、登校の最中に考えに没頭してしまったようだ。そんな憂夜の様子を不審に思い、深紅が尋ねた。
「初めて逢った人間を、お前はどこまで信用できる?」
あまりにも唐突な一言に、一瞬深紅は虚を疲れる。しかし、憂弥の表情が余りにもまじめだったので、まじめに考える。
「ん……よく話してみないとわかんない。よくわかんないまんまじゃ、信用はしないんじゃないかなぁ……」
「んじゃ、お前は俺を信用してるか?」
「事によりけりだけど、信用してる…と…思う…」
「弱っ」
「いや、たいていのことは信用してるよ。いや、これホント!」
「必死だな」
「いやぁ、あはははは…」
「んじゃ、お前は俺のことをわかってるてことか?」
「うん、そりゃ間違いない。憂弥のことは明日の天気よりわかってるよ」
「そっか……」
「何でまたそんな事聞くの?」
「別に何でもないけどさ……」
憂弥はまた考え込んでしまった。気づけばもう教室の前だった。深紅は憂弥の背中に「あたしは生まれて1ヶ月で憂弥と初めて会ったらしいよ。当たり前だけど、憂弥も生後2ヶ月。二人とも言葉なんか話せない。ウチのお母さんが言ってた。『でも二人はとっても仲良しだったのよ』って」
深紅は憂弥の耳元で「元気だして」と、小走りで憂弥を追い抜き、教室に入っていった。憂弥もゆっくりと後を追いながら頭の中で繰り返した。
(会ったばっかで大して話したことない人間は信用できんが、何も話さなくてもすぐに信用できる人もいるってことか?)
サラマンダーの言葉が信用できるかどうか。憂弥は良くわからなかった。ただ、信用してやりたい。漠然とそう思った。
(サラマンダーは命がけで俺に言った。レヴィ・ストーンを守れと……誰にも渡すなと……)
教室に入ると憂弥はすぐに机にかを伏せ、深い眠りに落ちて行き、そのまま昼休みに深紅に起こされるまで眠り続けた。
ここ数日、実はなかなか寝付けなかった。