26.

いつも通りの朝だった。

朝霧深紅は家を出て隣の家の戸を叩く。

いつも通りに通され、階段を上り、勢いよくドアを開けた。

しかし、そこにはいつもと違う状況があった。憂弥がすでに起きていたのである。

「あら、珍しいじゃない。自分で起きれる事もあるんだ」

憂弥は深紅を見ると静かな声で「たまにはな……」とだけ言った。深紅はその声に何かを感じとったが、わざと作ったような元気な声で「じゃ、表で待ってるから」と言って部屋を出た。

都内の閑静な住宅地を、二人は珍しく無言のまま登校した。何か考え込むようにしている憂弥から、少し遅れて深紅が歩いている。彼女は、ただならぬ雰囲気を憂弥から感じとり「何かあったの?」と聞いたが、憂弥の返事はない。もう一度少し大きな声で尋ねると 「あ……ごめん。聞いてなかった。なに?」

「ううん。何でもない」

深紅は、それ以上は聞かなかった。

二人の通う高校は、歩いて二十分ほどの所にある都立高校で、四十人前後のクラスが、学年に八つずつある。二人のクラス、二-Aは二階の一番南にある。

今日は珍しく憂弥がずっと授業を受けている。深紅は時々後ろの方に目を遣り、深く考え込む憂弥を気にしていた。

憂弥は昨日のできごとを思い出してはため息をついていた。深紅の視線には一向にきづく様子もなく。