14.
歪んだ景色が一度闇に還り、次第に新しい景色が像を結び始めた。
どうやら屋外らしいが見た事のない場所だ。大きな銀杏の木がそびえ、厳かな門が見える。その向こうは普通の道路のようだが、憂弥にはまだそこがどこかはわからなかった。門と銀杏の木を背にして振り向くと、どうやらどこかの寺の境内らしい。本殿の左手には鉄柵があり、その向こうに墓地も見える。
(あそこか?)
夢で見たあの男を求めて、憂弥は歩きだそうとして気付いた。
(これは夢の続きじゃない。現実?)
さっきまで保険室のベッドの中にいたのは確かなようだ。制服を着ているし、第一靴を履いていない。
(どういうことだ?何で突然のこんなところに?)
辺りを見回したが夢と現実の境界もあいまいで判断がつかない。
(考えてても仕方ないか。これはまだ夢ってことにして、とりあえずあの男を捜そう)
再び歩き出したが、靴を履いていないせいで足どりはぎこちない。それでも憂弥は墓地へ向かい身長よりも高い鉄柵を越えた。身長一七二センチの憂弥にとっても、この鉄柵を越えるのは苦しかった。
墓地に入り見て回ると、この寺がそれほど寂れた田舎町にあるものとはどうも思われない。それぞれの墓石はまだ新しいようだし、ほとんどに何かしらの供え物がしてある。しかし、かなりの広さから、それほどひらけた都会にあるものとも思われなかった。
かなり奥の方に入り込んだ頃だった。ふと見ると一つの墓石に血らしきものが付いているのが見つかった。憂弥がそれを確認しようと近づいて行ったとき、突然真横にあった墓石が砕け散った。
(!?)
憂弥は驚いて尻餅をつく。何が起こったのかとっさには理解できない。砕けた墓石は、ちょうどダイナマイトで吹き飛ばしたような感じだ。破片の一つが憂弥の額あたりをかすめたらしく、こめかみから頬へ暖かいものが流れる。
(何だ今の?)
身の危険を感じ思わず身構えた刹那、真後ろにある墓石も音を立てて崩れ、それからは至る所でけたたましい音が続いた。よく見るとテレビで見るような黄色い光線が飛び交っているのがわかる。どこからか狙われている事に気付き、憂弥は体を低くして墓石の間を移動し始めた。
(なんだってんだ?戦時中か?一体どこから狙ってやがんだ?!)
考えを巡らせている最中も、見えない所からの攻撃は止む事を知らず、大きな爆発音を伴って墓石の破片は飛び散り、憂弥の目の前を光線が一瞬で横切っていく。とうとう行き止まりまで追い込まれたとき、後ろから声が聞こえた。
「こっちだ。紫堂憂弥」