12.
真っ暗な部屋に明かりがさしたのは、ちょうどその時だった。
人の気配を感じ、憂弥は薄目を開ける。まぶしさに目を凝らすと、部屋のドアが開き、廊下の照明を背に誰かが立っている。シルエットから深紅であることはすぐわかったが、これが現実なのか夢の続きなのかはまだ判断できずにいた。
深紅は部屋に入るとドアを閉め、再びあたりは漆黒の闇に閉ざされる。憂弥は状況が掴めないまま、暗闇に目を凝らしていた。
ようやく目が慣れて、ベッドの横にたたずむ深紅の表情も、ぼんやりとだが認識できるようになった頃、憂弥はようやく覚醒し「どうした?一人じゃさびしくて眠れないんか?」
「……」
「なんだよ、どうかしたのか?ホントに…」
憂弥は上体を起こし深紅の答えを待つ。何も言わない深紅に、ちょっとした不信感が芽生える。その時、「!?」
深紅は無言のまま、パジャマのボタンをはずす。躊躇の欠片もなく、上着を脱ぎ捨てた。暗闇の中に上半身があらわになる。
「おい!何してんだ?寝ぼけてんのか?」
慌てふためく憂弥をものともせず、深紅はズボンも脱ぎ去り、よどみなく下着もはずす。暗闇の中、何も隠そうとはしない。
「し…深紅?」
憂弥は深紅の体から目が離せない。暗闇の中とは言え、目は慣れてきている。憂弥の鼓動が早まる。
深紅は身じろぎもせず、隠そうともせず憂弥の視線を受け止め、黙したままだ。
「どうしちゃったんだよ、おい」
狼狽する憂弥の唇に、深紅の人差し指が触れる。
(黙れってことか?)
憂弥の体はそれから先、完全に自由を奪われてしまった。金縛りにあったように動かない。深紅はゆっくりと憂弥に顔を近づけると、躊躇なく唇を重ねた。
そのまま掛け布団をずらし、憂弥の着ているTシャツを脱がす。憂弥は目を見開くだけで声も出せない。
深紅は苦労しながらも憂弥のスウェットパンツを脱がし、下着に手をかける。指先に一瞬だけ戸惑いが感じられたが、深紅の動きはそれ以降止まることはなかった。
ぎこちない動きで憂弥の体を探り、首筋に唇を這わせる。髪をなで、耳を吸う。懸命に憂弥の体に触れ、時折唇を重ねる。戸惑うような舌の動きに、憂弥の体は痺れはじめる。
憂弥は事態がわからず、ただ混乱の中にいた。快感が体をつきぬけ、頭が朦朧とする。
(!!)
頭の片隅で、まさかと思っていた。事態は掴めないがそこまではないだろうと。だが、深紅はそのまま憂弥の上にまたがるように、ゆっくりと憂弥を受け入れていく。懸命に、それだけを求めるように。
うっすらと見える深紅の表情は、しかし快楽とは程遠く、苦痛に耐えているようだ。
徐々に深く、苦痛に顔を歪ませ、目に涙を溜めながらも、深紅はようやく全てを受け入れると、初めて小さく吐息を漏らした。それは安堵か落胆か、それとも絶望か憂弥には判断できない程かすかなものだった。
時間をかけ、ゆっくりと上下する深紅の動き。耐えるような深紅の表情。
どのくらいの時間、深紅はその苦痛に耐えたのだろうか。やがて憂弥は飲み込まれていった。
全てが終わると、深紅はパジャマを着て部屋を出て行った。結局、何一つ語らずに。
部屋の扉が閉まると、憂弥はようやく呪縛からとかれたようにベッドに倒れこみ、そのまま朝まで目を覚まさなかった。