10.
ようやく取り戻した静寂を、憂弥は惰眠をむさぼるためにではなく、考え事に費やしていた。もともと、保健室で横になってはいても、たいていは眠らずにただ天井を眺めているのが常である。この時もいつも通り天井を眺め、口やかましい世話好きな幼馴染のことを考えていた。
(深紅が悩んでいるのに気がついたのはいつ頃だろう?
多分、先月のあの日だ。深紅の親が、結婚記念日だとかで、夫婦水入らずで旅行に行った日…。
その日、泊まることになった深紅と母さんと三人で、俺たちは食卓にいた。)
「深紅ちゃん、それ取ってもらっていい?」
「これ?」
「うん。ありがと。あぁ、それにしてもホントに娘がほしかったわぁ」
うっとりと天井を見上げる諒子に、蔑ろにされている一人息子が存在をアピールする。
「おいおい母上」
諒子はしばらく息子を見つめると、やがて小さくため息をひとつ。
「いいでしょ。やっぱり花があるじゃない?女の子がいると、食卓がパァっと明るくなるわ」
「暗くしてるつもりはないんですけど…」
息子はそっぽを向きつつ抗議のコメントだけ。
「まぁまぁ、しょうがないじゃない?やっぱり私には花があるし、憂弥はなんか薄暗いし…」
間を取り持つかと思いきや、深紅は平然と言ってのける。
「薄暗いって何だよ?むちゃくちゃ明るいっちゅうんじゃ」
眉間にしわがよっている。
「よく言うわこの子は…」
母親も呆れ顔だ。
「ホントのところどうなんですか?憂弥って普段どんな感じ?」
「あら、深紅ちゃん気になるぅ?」
諒子はいたずら好きな性格を隠そうともせず、隣に座っている深紅をつつく。
「え、あ、いや、別に気になるって程じゃ…」
「いいのいいの隠さなくて。そうねぇ、ちっちゃい頃から仲良かったもんねぇ…。二人ともお年頃だしねぇ…」
「ちょっとちょっとおばさん、変なこと言わないでっ」
「照れない照れない。憂弥、あんた幸せ者よ。こんなかわいい娘に愛されて…」
「おう、この上ない喜びだね」
全くもって憂弥は否定しない。
「ちょっと憂弥も受け入れないでよ」
「まぁ、いいじゃねぇか、事実だし」
「勝手なこと言うなっ!ホントにおばさん、気のせいですよ、勘違い」
「あら、そんなにムキになったら余計誤魔化せないわよ」
「う、ぐぅ」
「素直になれよ」
他人事みたいに憂弥が言う。
「くそう、二人して…。あたし一応お客様なんですからね。からかって遊ばないでっ」
「あら、なに言ってるの?お客様ってそんな他人行儀な…。お嫁さんでしょ?」
「違―う!」