4.
「行ってしまったな…」
「ぐう」
ベッドの上では抜け殻のようになった憂弥がうずくまっている。
「こっぴどくやられたな、紫堂」
「あんにゃろ、思いっきり殴りやがって」
「強いな朝霧は」
「剣道部主将だからね」
「へぇ、すごいね」
「東京都二位だからね」
「へぇ」
ふと、会話が途切れる。
「美穂ちゃん…」
「ん?」
「手当てしてくれる?」
窓の外を眺めながら、憂弥がつぶやく。
「ああ、そうだね、見せてみ」
「手当てすんだら休んでていい?」
「ああ、好きなだけいるといい」
「いいのか?生徒がサボってるのを放っといて」
「ああ、留守番が必要だからね」
「小林?」
「うん」
「また行くの?」
「だって職員室にいなかったんだもん」
美穂は突然少女のように顔を赤らめる。
「だから早かったのか。調べとけよ。授業だろ?たぶん」
「ないよ。調べたもん。小林先生のスケジュールは全部、頭に入ってるもん」
「“もん”じゃないよ。いくつだよ美穂ちゃん」
「うるさい!25だよ、文句あっか!?」
「四半世紀も生きちゃってるよ」
「うるさい!女は25くらいが一番いいんだよ!もっとも、あんたみたいなガキは朝霧みたいな小娘の方がいいんだろうけどね」
「小林も女子高生好きだったりして…」
「▲@◇☆○▼※!」
「ぐう」
もはやボロ雑巾である。
「あたしゃ、出かけてくるからね。留守番、頼んだよ」
美穂は深紅と同様、ぴしゃりと扉を閉めると保健室を後にした。
誰もいなくなった保健室で、憂弥はようやく静寂を手に入れた。