本来、静寂で満たされてしかるべき場所で、甲高い声が響き渡った。それは引き戸が開くのとほぼ同時だった。
「あぁ!また、寝てる!憂弥(ゆうや)!こら、起きなよ!ハゲ鉄が怒ってるよ!」
保健室の簡易ベッドで横になっているのは彼女の幼馴染、紫堂(しどう)憂弥だ。朝霧深紅(あさぎりしんく)は引き戸をぴしゃりと後ろ手に閉めると、つかつかとベッドに歩み寄った。
「うるさいなぁ。テキトーに言っといてよ。体調悪いんです、あたしゃ」
「ふ・ざ・け・ん・な」
「ふざけてないです。ホントに辛いんです。熱だってあるんですよ、人並みに」
憂弥は布団にもぐりこむ。
「バカ言ってないで教室に戻るの!ハゲ鉄の頭が、そりゃもう真っ赤になってんだからね!早く教室に戻らないと、みんなもう限界なんだから!」
深紅が布団を引き剥がす。
「限界?なんだ、それ?」
「キツいの!こらえるのが!」
「何を?」
「笑い!」
「あっはっは」
深紅は押し寄せる疲れを感じずにはいられない。
「はい、もう行くよ!早く起きて!保健室はあんたんちじゃないんだよ!」
深紅は憂弥の腕を取ると、強引に引っ張り出そうとする。
「こんな消毒液臭い家はいやじゃ」
「勝手なことを…。先生はどうしたの?」
「ん、美穂ちゃん?美穂ちゃんは小林とティブレイク。職員室じゃない?」
「もう、葉山(はやま)先生もテキトーね。生徒が授業サボって寝てんのに、自分は小林先生とイチャついてるわけ?」
突然、がらりと引き戸が開き芯の強そうな女性の声がした。
「人聞きの悪いことを言うな」
深紅は驚いて振り返る。
「葉山先生!?」