https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-17/SGQUITT0AFB400https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-17/SGQUITT0AFB400




トランプ氏は自身の経済政策「トランプノミクス」の要点は「低金利と低課税」だとし、「事を成し遂げ、ビジネスを米国に回帰させる多大なインセンティブとなる」と話す。

  トランプ氏はエネルギー資源の採掘拡大や規制緩和を推進し、メキシコとの国境の警備を強化する方針だ。米国にとって有利な条件を引き出すため、敵対国・同盟国を問わず圧力をかける。暗号資産(仮想通貨)業界の成長を促す一方で、大手ハイテク企業を締め付ける。端的に言えば、米経済を再び偉大にする考えだ。

  トランプ氏は1時間半にわたりビジネスや世界経済など、ホワイトハウス復帰の場合の自身の政策課題に関する広範囲の話題についてインタビューに答えた。

  トランプ氏はその中で、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の任期満了前に解任を目指さない考えを示した。パウエル議長の任期は2026年5月までで、トランプ氏は「彼に任期を全うしてもらうつもりだ」として、「彼が正しい政策運営を行っていると考えられる場合は特にそうだ」と語った。

  その一方でトランプ氏は、米金融当局が11月の大統領選前に利下げして、それが経済およびバイデン大統領への追い風となることを控えるべきだと警告。ウォール街では、選挙前の1回を含め、計2回の年内利下げを完全に織り込んでいるが、トランプ氏は金融当局について「彼らはそれをやるべきでないことを分かっている」とコメントした。

  また、法人税率を現行の21%から最低15%に引き下げたい考えを示した上で、その目標達成があまりにも困難だと分かれば、20%への引き下げでも受け入れる意向を表明。「単純明快」な数字であることが理由だとした。

  大統領在任中に禁止に追い込もうと試みた中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡っては、もはや禁止する計画はないとした。

  また、昨年の時点で「非常に過大評価されたグローバリスト」と攻撃していた米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)について、自身の考えを変えたことも明らかにした。

  トランプ氏は、政治キャリアも考慮していると受け止められているダイモン氏に関し、財務長官への起用を「考える」ことも想定されると語った。ダイモン氏の広報担当者はコメントを控えた。

  台湾を中国の脅威から防衛することなど、長期にわたる米外交政策方針にも疑問を呈する姿勢を表明。トランプ氏は台湾防衛の考えや、ウクライナ侵攻を巡ってロシアのプーチン大統領を罰する米国の取り組みにはクールだ。「私は制裁を好まない」と発言した。

  台湾防衛についてのトランプ氏の懐疑的な姿勢は、実際の防衛に当たっての難しさや、米国の保護に対し台湾が経費を負担してほしいとの願望などに根ざしている。同氏は「われわれはいかに愚かであるか。彼らは米国の半導体チップビジネスを全て奪った。彼らはとてつもなく裕福だ」と論じた。

  トランプ氏はこのほか、連邦の刑事裁判で有罪となった場合、自身の恩赦を「検討するつもりはない」と主張した。

  トランプノミクスの全体像はトランプ氏在任中のものと違いがないかもしれない。新たな要素はそれを実施するに当たってのスピードと効率性だ。適材適所の重要性を含め、権力のレバーに関する理解は深まったと、同氏は確信している。

  トランプ氏は経済についての自身のメッセージが11月の選挙で民主党を破る最善のルートだとみている。共和党全国大会初日の15日夜には「富」がテーマとなった。同氏は減税や石油増産、規制緩和、関税引き上げ、外国への金融コミットメント縮小といった型破りな政策方針によって、激戦州で勝利するための十分な有権者にアピールすると考えている。

  それはトランプ氏の支持者による21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件をはじめとする同氏在任中の負の部分を有権者が大目に見るというギャンブルでもある。

  既に複数の世論調査では、食品や住宅、ガソリンなどの歴史的な価格高騰を苦にした黒人やヒスパニック系の男性が共和党にシフトしつつある兆候が見られる。バイデン氏は極めて低い水準にある失業率や賃金上昇など、政権の経済的実績を主要な有権者に売り込むのに苦戦している。同氏の高齢に関してもパニックが広がっている。

  トランプ氏は大統領選を制する可能性があり、民主党指導部の間では、共和党がホワイトハウスに加え、上下両院の支配も勝ち取るのではないかと懸念を強めている。

  そうなった場合、トランプ氏は米経済や世界のビジネス環境、同盟国・地域との貿易関係を形作る上で前例のない影響力を手にすることになる。トランプ氏は在任中、一対一での取り組みを好む傾向を示した。トランプ氏とベストな関係にある企業の経営首脳や世界の指導者は有利となる一方、同氏の敵は不利な扱いを受けて同氏が何をするか恐怖を抱くことになった。

  ビジネスウィークがトランプ氏に行ったインタビューで一つ鮮明になった点があるとすれば、同氏はこうしたパワーを十分に認識し、それを活用しようと心に決めていることだ。

インフレ

  経済に関してパウエル氏の問題の他にトランプ氏の胸中にあるのはインフレだ。トランプ氏は、バイデン大統領の経済運営責任をこれまで繰り返し批判してきた。しかし、物価高騰と高金利が生む怒りの中に黒人やヒスパニック系の男性といった共和党を通常支持しない有権者を取り込むチャンスを同時に見いだしている。「われわれが持つ流動性の黄金はどこよりも多い」と話すトランプ氏は、石油・天然ガスの掘削拡大に道を開き、価格を下げると言う。

  3番目は移民だ。厳しい規制が国内の賃金と雇用を押し上げる鍵になるとトランプ氏は考えている。経済をつくり変えるプロセスで、移民規制を「最大のファクター」と位置付ける。支持獲得を切望するマイノリティー(人種的少数派)に特に恩恵をもたらすという意味もある。「何百万人という人々の入国で、黒人たちは大きな打撃を受けるだろう。彼らは既にそれを感じ取っている。賃金はだんだん減り、仕事を不法移民に奪われている」とトランプ氏は主張する(労働統計局によれば、2018年以降の雇用増の大半は移民ではなく、市民権を得た人々と合法的な居住者だ)。

  トランプ氏の言葉は終末論的になる。「雇用や住宅、あらゆるところでこれまで起きたこと、これから起きようとしていることが理由で、この国の黒人たちは死のうとしている。私はそれを止めたい」と訴える。

  石油の掘削は別として、トランプ氏は物価引き下げのプランを詳しく説明していない。自ら提唱する強力な関税が思いがけない収入を米国にもたらすというのが個人的な確信だが、主流派の経済学者は同意していない。関税はさらにインフレを助長し、米国の家計にとって増税になると彼らは警告する。ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の報告書によれば、トランプ氏の関税制度の下では、平均的な中所得世帯に年間1700ドルの追加的コスト負担が生じる。オックスフォード・エコノミクスは、関税と移民規制、減税延長の組み合わせによってインフレ率が上昇し、経済成長が鈍化する恐れがあると評価する。オックスフォード・エコノミクスの米国担当首席エコノミスト、バーナード・ヤロス氏は、一連の政策のスルーライン(一貫したテーマ)が「インフレ期待の上昇」との見解を示す。

  そして財政赤字だ。トランプ氏は大統領在任中の2017年に成立した税制改革法を更新し、法人税をさらに引き下げることを望んでおり、同氏や彼のアドバイザーが説明しない手法がどんなものであれ、それは財政均衡を描き出すものではない。保護主義的政策の結果としてエコノミストが予想する金利上昇圧力も相まって、国の膨らむ債務負担をさらに増大させる恐れがある。

  それでも結局、トランプ氏の他の考え方は、ビジネスリーダーたちを味方に付くよう揺さぶるには十分かもしれない。トランプ氏の献金者で、シェール生産会社コンチネンタル・リソーシズの会長を務めるハロルド・ハム氏は「バイデン政権には自由市場へのあからさまな敵意が感じられ、その結果、投資が手控えられている。規制の不確実性に加え、特定セクターへの規制の敵意がむき出しなケースさえある」と指摘し、バイデン政権による液化天然ガス(LNG)プロジェクト停止をその例として挙げた。「トランプ氏が返り咲きを果たせば、手控えられていた投資が再び解き放たれるだろう」と同氏は予測する。

米財界指導者

  米企業はトランプ氏の大統領復帰の可能性に適応しようとしているが、企業トップの多くはそれを待ち望んでいるわけではない。多くのトップ経営者と定期的に話をしているイエール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授は、「彼らはトランプ氏に我慢ならない」と言う。ただ、一方でトランプ氏が再び大統領となり、うまく付き合っていく必要が出てくる可能性が高まっていることを認識している。

  トランプ氏は6月にワシントンで、JPモルガンのダイモン氏やアップルのティム・クック氏、バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハン氏ら国内の著名な企業トップ数十人と非公式に会談した。超党派のロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が主催したこの集まりでトランプ氏は、長い間難しい関係にあった数多くの企業リーダーと対面。その多くはトランプ氏に大統領就任当初から警戒心を抱いていた。

  2021年1月6日のトランプ氏支持者による連邦議会議事堂襲撃事件の後、クック氏、ダイモン氏、モイニハン氏はいずれもこの暴挙を非難。クック氏は「わが国の歴史における悲しく恥ずべき一章」と呼んだ。しかし、マンハッタンの陪審員団が34件の虚偽記載の罪でトランプ氏に有罪の評決を下したわずか数週間後、誰もがトランプ氏と交わるために集まった。これは紛れもなく、権力のダイナミックスが変化していることを示している。

  トランプ氏は米企業経営者たちとの関係のあり方についてきわめて敏感で、彼らの支持を望むか、それとも彼らを自分の意のままにしたいのかで揺れ動いている。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノーCEOが表紙を飾った「ビジネスウィーク」誌7月号をマールアラーゴで見せられたトランプ氏は、世界有数の大富豪であるアルノー氏について「信じられないような男で、私の友人だと思う」と言及し、トランプ氏との関係が話題に上ったかどうか尋ねた。(それはなかった)

  トランプ氏は、フォーチュン100企業のCEOで自身の選挙キャンペーンに公に寄付した人はいないと指摘されると、歯切れが悪くなる。(その後、イーロン・マスク氏が資金面での支援を表明した)。トランプ氏は6月のCEOらとの非公式の会合に関してCNBCが報道した際、トランプ氏について「著しく話があちこちに飛び」、「支離滅裂」と非難したあるCEOの匿名コメントを取り上げたことに、まだ頭を抱えている。

  むしろ、会合は好意的な空気に満ちていた、とトランプ氏は主張する。「自分が愛されていないときは誰よりも自分がそれを感じる」からだという。トランプ氏によると、CNBCから謝罪の電話があった。(CNBCの広報担当者は「謝罪はしていない。コミュニケーションをオープンに保つことについて前大統領と話した」と説明した)

  トランプ氏は、自身の政権が2017年に法人税率を「39%から21%に」(実際には35%から21%)引き下げたことを会合に集まった幹部らに思い出させ、さらに20%まで引き下げると宣言したと説明。「彼らは喜んでくれた」とトランプ氏は振り返る。さらに税率を15%まで下げたいと付け加えた。