http://www.asahicom.jp/articles/images/AS20141201000657_commL.jpgハンドボール国際審判として活躍する島尻(左)、太田のペア
 
 五輪には「開催国枠」があり、その国の選手は全競技に出場できる場合が多い。審判は違う。各競技の国際連盟(IF)が、個々の実力で選ぶケースがほとんどだからだ。2020年東京五輪でも実施されるハンドボール7人制ラグビーでは、世界最高峰の大会を経験している日本人審判がおらず、育成が課題になっている。
 
 東京五輪では今のところ七つの団体球技(水球、サッカー、バスケット、バレー、ハンド、ホッケー、7人制ラグビー)が実施される予定。このうちハンドボールで日本人審判が五輪に出場したのは1992年のバルセロナ大会が最後だ。審判は2人1組でIFに登録する仕組みで、日本からは女性ペア1組を含む3組が「国際審判」として認定されている。
 
 国際審判8年目の池渕智一(37)、檜崎潔(36)組は来年1月、カタールで開かれる男子の世界選手権に初めて参加する。日本人審判が男子世界選手権を裁くのは、大会が日本で開催された97年以来。「五輪で審判を務めるには世界選手権を経験しなければならないので、とてもうれしい。東京五輪は目標。でもまずはリオ五輪を目指さないと」と檜崎さんは話した。
 
 気が抜けないのは、事実上の「アジア枠」があるからだ。世界選手権には開催国のカタール、そして韓国からも審判が参加する。ロンドン五輪の審判団は16カ国のペアのうち、2組がアジアからの選出だった。「東京五輪だから日本人審判」とすんなり決まる保証はない。「カタールも韓国も、勤務先や国のオリンピック委員会の後押しがあり、国際経験を積める機会が多い。彼らは会う度に成長が著しい」
 
 年齢の壁もある。2人は東京五輪では40歳を超えるが、世界大会には若手が起用される傾向があり、40歳以上で任されるのは、トップ中のトップだけだ。国際ハンドボール連盟は女子の試合は女性審判で運営する方針を掲げており、将来的に女性審判の枠を設けて、男性審判を減らす可能性もある。
 
 日本の女性ペア、太田智子(33)、島尻真理子(33)組は、2010年に日本ハンドボール協会が発足させたエリート審判を養成する「レフェリーアカデミー」の卒業生だ。昨年あった女子世界選手権の審判団に選出されたが、当時、岡山県の県立高校で体育の教員だった太田さんが、勤務への影響を理由に辞退した。「今は県内の会社に転職して活動がしやすくなった。女性審判は少ないので、私たちが五輪に出て『格好いい』と思われるようにしたい」と話す。
 
 ラグビーの審判資格は、15人制と7人制の区分けがない。19年のW杯日本開催に向けた審判育成が、そのまま東京五輪につながる。国内最高峰「トップリーグ」の企業チームが審判も抱えるようになり、第一線の審判活動を支える環境が整いつつある。日本ラグビー協会は、国際経験を積ませるために有望な審判をニュージーランドや香港に派遣。W杯など世界レベルの試合を担当できる公認レフェリーはまだいないが、南半球の強豪クラブによる国際大会などを任される審判も出てきている。
 
 日本オリンピック委員会(JOC)の強化費などに支えられる選手強化と違い、審判育成には競技団体が独自で資金を捻出しなければならない。数週間にわたる国際大会への参加を勤務先が認めるかどうかも重要な問題だ。日本ハンドボール協会の藤井俊朗審判委員長(54)は「学生時代にアカデミーに選ばれた優秀な子が、就職してからアカデミーの講習会や審判の割り当てに参加できなくなった例もある」。現場ではJOCや国の支援を求める声が強い。(編集委員・忠鉢信一
 
 
■団体球技の日本人審判の現状
水球【世代交代】
 ロンドン五輪を経験した国際審判・牧田和彦氏が定年で引退。
 
サッカー【充実、世代交代】
 W杯南ア大会、ブラジル大会を経験した西村雄一主審が引退。ロンドン五輪は男女5人が参加。
 
バスケット【安泰】
 14年W杯に平原勇次氏が3大会連続3度目の出場。北京五輪では女子決勝を担当。
 
バレー【充実、安泰】
 ロンドン五輪に田野昭彦氏が参加。後進の国際審判員も育っている。
 
ホッケー【安泰】
 ロンドン五輪の女子3位決定戦を相馬知恵子氏が担当。五輪は3大会連続出場で、国際試合100試合も達成。
 
ハンド【育成急務】
 15年男子世界選手権に池渕、檜崎組が初出場。
 
7人制ラグビー【育成急務】
 6カ国対抗など一線級の代表戦を担当できる審判がいない。