加藤泰「幕末残酷物語」 | Savage Salvage (AKA UЯASHIMAru)

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あえて「あの」山中貞雄の甥、と言うまでもなく加藤泰自身、ある時期の日本映画(いや世界の映画を)大きく変えた巨匠であるが、一部のシネフィルはともかく現状で正当に評価がなされているとはとても言えない一人でもある。署名技法とも言うべきローアングルのためならアスファルトを掘り、電線も取り去ってしまえという映画の虫、加藤泰は叔父山中貞雄譲りのリベラルな人柄で大映を一旦追放された時期もあったが、その後期東映任侠映画のイメージやクェンティン・タランティーノの各作品にも引用されるリアルに飛び散る血飛沫で語られる方が多いかもしれない。
「幕末残酷物語」は加藤にとって、当時の2本立てプログラム・ピクチャーの「添え物」の方の監督としての「気楽」な監督稼業から後期のやや重いと言われる作風への過渡期に位置する興味深い一本。当時この添え物作品はあらかた約2週間で1本を撮るという早業と、スターを如何に見せるかという条件にも縛られる職人仕事を要求される中で次々生み出された一本であり、またその条件を満たすべく所謂Bユニット、つまり助監督によって撮影が進められた部分をかなり含む、まさに全員参加による完成品でもあるため、今になって監督を軸として一本の映画を読み解くという文脈がどこまで有効なのか実のところは解らないし実際どの部分が、たとえばこの作品の場合当時助監督を務めた鈴木則文や清水彰の撮ったモノかも解らない。しかしそこは叔父譲り「ハサミあるさかい、お前らなんぼでも勝手にさらせ、ちょんぎれちょんぎれや(山中貞雄)」の精神でこの作品全体をゆるくまとめる監督加藤泰のモノと看做せば良いであろう。

冒頭より加藤節炸裂のローアングルの空には狩野山雪もびっくりなモダンな意匠の雲が描かれるがこの美術は冨田治郎、山下耕作のあの「京阪神殺しの軍団」で真っ白の洗濯物を画面一杯に広げた人。またこの時期加藤が拘ったある種のリアリズム(と呼ばれるそれ迄とは一線を画す新たな演出)にもとずく素顔(もしくは薄化粧)の俳優達、というと特にこの映画の場合大川橋蔵についてその白塗りスターの肖像とのあまりの違いに言及されるが、むしろ前半、夏の窓辺でむ佇む藤純子の顔からうなじにかけての玉の汗が隠喩するものと、後半大川に抱かれて一気に気色ばんだ表情の変化にこそ、加藤一流のエロティシズムが感じられ見入ってしまう。そういった表現の繊細さと、これはそのセット等の技術的制約がすぐ背後に有るとはいえやはり独特の署名性がある写真的でタイトな構図作り、そして白黒映画ならでは強いコントラストが生み出す芸術性、ただのリアリズムではない劇映画として、諸々の縛りを独自の作風へと変えることの出来る鬼才の特権が生み出した不ニの作品であると確信するほか無い。

今更やけど、やっぱり加藤泰の映画は面白い。

11/19(火)
「幕末残酷物語」
 1964年東映京都
@京都府文化博物館映写室
監督:加藤泰
出演:大川橋蔵/藤純子/河原崎長一郎/西村晃/大友柳太朗ほか