不運のラビリンス後編
ラビリンス…クレタ島にある、一度入ったら二度と出ることができない迷宮。放射線治療はわたしにとって開けてはいけないパンドラの箱だった。箱の中に最後に残っていたのは希望ではなく不運のラビリンス。いつものERで新任だという若い医師がわたしのお腹を診ながら手術痕がないけど、、外科手術をしたことがなくて腸閉塞になるか?と戸惑ったように独り言を言う。放射線治療ですよ…わたしの言葉に思い出したとばかり、あぁ、あぁ、と頷いた。一般的には術後腸閉塞、開腹手術を受けた患者さんが手術から数時間後、数カ月後、数年後に発症することが多い。放射線治療による発症はその確率から言っても稀だ。晩期に発症すると難治性となったりする。ただ、術後腸閉塞の患者さんには「 希望」があ る。腹腔鏡手術という低侵襲な術式であらたな癒着を生むリスクに悩まされることなく。わたしが"不運のラビリンス"と呼ぶ長く曲がりくねった傷んだ小腸はどこで腸管が癒着してるのかわからない、行き止まりが。いや、行き止まりが何処かわからなくてもいい、問題は出口がないことだ。開腹すれば小腸の何処がどう癒着しているのか術野で確認できるのだろうが治療することができなければ開腹する意味がない。あらたな癒着を生むだけだ。かくして、わたしは迷宮のつきあたりで立ち尽くす。胸の内で煙が立ち上る。中原中也の「 冷たい夜」のように誘われるでもなく覓(もと)めるでもなく、私の心が燻る……