『23日とか24日とか空いてる?』
……空いてるわけがない。
今世紀最大の虚しすぎる愚かな質問である。
こんなにきつく激しく抱きしめてくれるのに。
汗ばむあなたの呼吸すら愛しい。
それなのにあなたの言葉はいつだってそっけない。
大好きの言葉が伝わればいいと願いを込めて、繰り返しあさましく愛を強請る。
あなたの背中にまわした私の腕を、指先を嫌がることもなく、振り払うわけでもない。
むしろ、ご期待に添いましょうとばかりに、私の望むだけ、欲しがるだけくれる人。
『彼女んち』
でも、ほら、期待は裏切られる。
予想通りの氷点下。
そうですか。即答ですか。
しかも直球、王道ってやつですか。
友達と約束してるとか、もっとこうなんというか加工してくれてもよさそうじゃない。
『リア充なのに、何で私と遊ぶ?』
『お前が俺に会いたそうだから』
『ボランティア?慈悲深いのね。聖人のよう』
もう泣かないと決めた。
意地でも笑って、イイ女風を気取るんだ。
こんな風にあなたが時々気まぐれの優しさをくれればいい。
からかうように笑うと、次の瞬間には獣の顔をして、容赦なく私の深淵を探りはじめるのだ。
貫かれ、暴かれ、偽りの羞恥などかき消されていく。
愛されていると錯覚してしまう。
どうかこのまま、少しだけ時間を止めて。
嬉しいのか悲しいのか、わけのわからない涙が頬を濡らす。
『泣くな。……その日にあいつと会って、ちゃんと終わらせてくるから』
だからイブは空けとけ、イイ子で待ってろとあなたが照れたように私の耳元で囁いた。
あれから何年たったのかな……。
あの頃欲しかったものはなんだっけ?
『心。奥さんじゃなくて私だけを好きだって言って』
あなたはそんなことあたりまえじゃないかと呟いて優しく頬を緩ませて、泣くなよと私のこぼした涙をぬぐってくれた。
憂いをこめた赤い月が笑ってる。
そんな綺麗なものじゃなかった。
てっとり早く確かめあえて、呼吸すら忘れた、深紅の時間。
互いをさらけ出し、濡れて踊り狂う情熱を交差させる。
今なら、素直に、ひたすら、ストレートに、終わりのない欲望を恥もせず、楽園に連れて行って欲しいと願うのかもしれない。
心ではない、もっと、むき出しの……。