「さっき会ったばかりよ」
「いいじゃん。何か不都合でもある?」
「ないけど……」
「じゃあ、もう、黙って、僕を感じてて」
どうしてだ。
僕にだってわからない。
生まれて初めてのナンパ?
会ったのはほんの2時間くらい前。
カフェで気まぐれな休日の午後を過ごしていた客同士。
目と目が合って、そらされることのない強い視線に僕の中の何かが疼く。
声をかけたらついてきて、愛車のドアを開けたら、抵抗もなく助手席。
走りついた先は、季節外れの海辺のホテル。
僕と君は盛りのついたオスとメス。
切なく甘い嬌声が僕を煽り、恋に落ちたことを知る。
携帯電話を取り出して、彼女の連絡先を問う。
首を横にふる。
「もう会えない」
「どうして?相性よくなかった?」
まさかこれっきりにするつもり?
動揺を隠してみたくて、上目遣いであんなに何度も強請った君をからかってみたのは僕の精一杯。
「ううん。よかった、最高だった。彼氏よりも……」
褒められてもあまり嬉しくはない。
「……男いたんだ?」
彼氏がいるなら早く言えよ。
僕は暇つぶし、遊ばれたわけか。
「私ね、……明後日、結婚するの」
「はあ?」
「嘘みたいだけど、信じてくれないかもしれないけど、あなたにひとめぼれ。こんなに惹かれて、初めて自分から抱かれたいと思ったのは、あなただけ」
―ずっとここに、この胸の中に、記憶の中に、あなたを残しておきたくて……
あれからいくつもの出会いがあったけれど、僕は君の面影を追いかけては、失恋を繰り返している。
レトロな窓を開け、二人、眺めた海岸線を僕はいつまでも忘れられない。