#30 Forever Love


馴染みの店のドアを開けると、約束をとっくに忘れた嘘つきのプレイボーイが優雅に微笑みながら女の子と食事をしていた。


大樹がこちらに気付き、小さく手を挙げる。


流里は唇を噛み締め、息を呑む。


何度目撃しても慣れない。


他の店にいけばいいのにと呪詛を吐き出す。


ざわざわと胸のあたりが苦しくなるのはなぜだろう。


ーーこうやってずっとおててつないでたら、るり、だいちゃんのおよめさんになれる?


ーーうん、ぼく、このひまわりくらいおおきくなったら、ぜったいるーちゃんとけっこんするんだ


「大樹のやつ、また、違う子連れてるんだな」


哲郎は悲痛な顔を浮かべていたが、やがて、いつもの穏やかな表情になり、流里を窓際の席に座らせた。


「由紀乃はあの日大樹の心も一緒に持って行っちゃったのかな」


大樹への想いが叶わないものだと知り、絶望した時、由紀乃は大学の屋上から天使のように翼を広げ黄泉の国に旅立った。


眩しくてけだるくて暑すぎる午後に、彼女はたった一人で逝ってしまった。


ーー海外留学?突然なんだな、きいてねーだろ、大樹、そんなこと


ーー悪いな、てつ、ここにいると由紀乃を思い出すんだよ。


ずっと三人でいられるものだとばかり思っていた幼い日々は今は遠い。


ーーいきの馬鹿、そんな大事なこと相談してくれればいいのに。

ーーつだって、一人で何でも決めちゃうんだから。
ーーごい自分勝手で、哲郎と違って、優しくないし、意地悪だし、
ーーらい、一生大嫌い。海外でもどこでも行っちゃえばいい



もし神様がいるのであれば、この告げられない思いをどうか大樹に伝えて欲しい。


ーーそうかよ。わかったよ。流里、俺のこと、……一生嫌いでいてくれ。
忘れられるよりずっといい。



まさに一日千秋の想いで大樹が留学先から帰ってくるのを待っていた。


それなのに、大樹の感情はどこか壊れたままのようだった。


大樹の瞳には光が消えていた。


流里は伝わらない伝えられない狂おしい想いを捨てきれずに、漂い戸惑う。


「流里、つらいの?」

「どうして?」

「あの日から、流里も笑わなくなったから。……大樹のそばにいたいんじゃないのか?」

「ち、ちがうよ、私は、……哲郎が好きだよ」


いつでもそばにいてくれて、どんなときも自分のことを考えてくれて、優しく支えてくれる哲郎に感謝していた。


★★

「てつ、プロポーズしたんだろ、流里に?」


大樹はスーツケースに着替えの服や下着を詰め込んでいる。


ちらっとながめた哲郎は照れくさそうに、ああと一言つぶやく。


「いいのか、大樹。お前本当は流里のこと……」


続けようとする哲郎の言葉をさえぎる。


「俺にはもうたぶん恋愛する資格なんてないんだよ。俺のことはどうだっていいんだよ。お前らには幸せになってほしいと思ってる。二人とも大好きで大切な存在だからな。これで安心して、イギリスで働けるよ。式には呼べよ、飛んで帰るからな」


「大樹」


「うん?」


「俺、流里のこと……生涯大切にするから」


哲郎の肩をぽんと叩き、「当たり前だろ、泣かしたら、たとえお前でも許さない」、大樹は大きく息をはき、少し笑った。


★★


ーーれからどのくらいの時間がたったのか。
ーーまやこの俺も企業戦士ってやつだな。
ーーんじられないくらい、仕事ばっかりしてるよ
ーーつは相変わらず優しくしてくれてるんだろ?
ーーり、俺とお前の夏は止まったままなのかもしれないな。

ーー俺の背はとっくにあの向日葵よりも高くなってるというのに。


届いた大樹からのメールの文字を何度も何度も読み直す。


返信しようとして、その手を止めた。


「たて読み?」


浮かび上がった大樹からの甘く切ないメッセージに、歓喜し、そして、深い悲しみに震え、静かに泣いた。


「だ、い、き……」


次元を超えていつかどこかで大樹と巡り会えたなら、また間違いなく彼に恋をするだろうと、流里は止まらない涙をぬぐいもせずに、泣き崩れていく。



愛して愛された。

誰よりも深く。

誰よりも幸せだったのかもしれない。

いつか二人が星になり、そのときは、未来永劫、離れることはないのかもしれない。


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