ブログネタ:好きなカキ氷のシロップは??? 参加中


「カキ氷?」
ミツグが私の体についた砂を払い落とす。

もうそんな風に笑いかけないで欲しい。

期待してしまう。

これからも指先がつながれたままなのだと誤解してしまう。

「レモンのやつ食べたばかりじゃない?」
ミコがカップを指差す。

「もうそれ溶けててまずい。虫いっぱいで気持ち悪い」

まるで私のように誰にも見向きもされずに蟻がたかっている。

「また食べたいの?向こうの売店で買ってきてやろうか?サユキはイチゴの練乳がけだよな?」

「違うよ。切ると五芒星の形になるやつがいい」

「もしかしてスターフルーツ?」

ロイヤルブルーの水着がよく似合っている親友のミコが大きな眼をくるりと動かす。

「そう、それのフラッペが食べたい」

「そんなもん置いてないだろ、ここの島には」

「ここにないなら車で出かけて買ってきて、ミツグ」

「サユキ?そんなの遠くに行かないと売ってないよ」

優しい声、でもそれは偽りなのだろう。

何度こうしてミツグの顔をみつめたことだろう。

漆黒の瞳は長いまつげに彩られている。

あきれたように吐き出された吐息さえ愛しい。

「きっとあるから、行ってきて。ミコが一緒ならみつかるよ。探し出すまで戻ってこなくていいから」

「何言ってるの?」

ミコが困惑する。

ミコを優しくみつめていたマモルが口を開く。

「そうだな、ミコ。俺、熱中症ぽいからここでサユキと留守番してる」

マモルも知っていたのだろうか。

気がついていなかったのは私だけだったのかもしれない。


パラソルはあまり意味をなしていない。

サイズの合ってない大きすぎるサングラスは私にはこっけいなだけで本来の機能をはたしていない。

眩しすぎてせっかくの青空がおりなす晴れ舞台を見物することもままならない。

太陽は露出した皮膚をじりじりと焦がし、サンスクリーンを簡単に突破し、体内の水分を奪うように、暴れ狂う。

立ちくらみの原因は気温のせいなのか、エンジン音を轟かせ、車に乗り、行ってしまった、ミツグとミコのせいなのか。

夕べはあれから一睡もできなかった。

眼の奥が真っ暗になるくらいのふらふらの酩酊感は寝不足によるものなのかもしれない。

ワインをあびるほど飲んだせいか夜中に喉が渇いて眼をさましていた。

隣に寝ていたはずのミツグはいなくて、悠久の波音にひかれるように、ペンションの部屋を出た。

すぐにビーチにいけるようになっているつくりがよかったのか悪かったのか。

遠い記憶を呼び起こすような独特の潮風の香りが私を追い立てる。

初めて体内にミツグの熱情を受け止めたのもこんなじれったいようなけだるい夏の夜だった。


ーーサユキ、好きだよ。
ーーサユキ、ごめんな、もう止めてあげられそうにもない。

ミツグの声に、自分へのあふれる想いを見せられたような気がして、未知なる恐怖ですくみあがっていた全身から力が抜けていった。

ミツグの優しくてもう怖くない手が指が私のこわばりをゆっくりとといていく。

ミツグの唇が触れなかった箇所はどこにもないほど、私は彼に愛された。



喉の渇きと心のうずきを潤して欲しくてミツグを探し歩いていた。

だんだんと闇にも眼がなれていく。

岩場の影によりそう二人がいた。

私の足はそこにぬいつけられたようにもう一歩も進むことができなくなっていた。

見覚えのある長い黒髪が風に揺れ、まるでそこが定位置のように、すっぽりと、ミツグの胸におさまっていく。

みつめあい、互いの息を奪い合うようなキスを繰り返し、みてはならない禁断の獣のようなメイクラブを私にみせつける。

ミツグとミコは唇で指で体でほとばしる愛情を交わし合っているのだ。

ああ、この二人はまぎれもなく本当に愛し合っているのだ。

かりそめの恋ではないのだろう。

誰にも止められない、誰にも邪魔されない楽園の中で息も絶え絶えになりながら、熱を奪い合っていく。

二人が漏らす激しい呼吸が耳にこびりつきまとわりつきうねるように私の体内を蹂躙する。

裏切りという純愛に私は犯されていく。

声にならない叫び声をあげ続け、砂にずぽずぼと沈んでいくサンダルを恨めしく思いながら、無我夢中でそこから立ち去った。



ーーあいかわらず好きだな、イチゴのシロップ、どれくらいかける?
ーーもちろん、syrupは16gでいい
ーーあっ、だめ……氷溶けちゃうよ。せっかくミツグが作ってくれたのに
ーーそうだなあ、じゃあ、サユキの胸んとこにかけてこのまま一緒に食っちゃうか
ーー馬鹿、変態、エッチ!



砂浜も照り返す太陽も潮騒もすべてが私たちを祝福してくれていたのではなかったか。

ーーみつぐ、こちら、最近留学先から戻ってきたばかりの親友のミコとその彼氏さんのマモル。
ーーよろしく……

今にして思えば、あれは、握手にしては長すぎたように覚える。

つかの間のバカンスを楽しむために、ブーゲンビリアの咲き乱れる楽園のホテルで、二人は一瞬でひかれあい、花言葉どおりに情熱的に恋におちたのだろう。

積み重ねられた私とミツグのお互いの信頼で結ばれていたはずの二年の日々はミコの煌めく黒い瞳の前では何の役にもたたない。

ーー俺、朝は味噌汁とご飯がいいな。
ーープロポーズみたいにきこえるよ
ーー耳いいね、そのつもりだけど
ーーほんとうに?私でいいの
ーーサユキじゃなきゃだめだ

もうミツグは私だけのもので、どこにも行きはしない、誰にも取られることなどないと、安心してしまったのがいけなかったのだろうか。



「マモル君、星の砂でもみつけようか」
「……願ってもなんにも叶わないよな」

パレットの上に無造作にチューブから出された絵の具のような濃くてどろりとした茜色の夕陽が目の前にあった。

太陽に押しつぶされそうになる。

眩暈を感じる。

最期のあがきを終えようとしている光線が、閉じたまぶたの裏で光の粒子を生み出した。

ひときわ輝き、やがて陽は沈んでいくのだろう。

「氷遅いね」
「そうだな」

いつまで待ってるふりをしていればいい?

いつまで待ったら二人を祝福することができる?

どれだけ泣いたら忘れられるのだろうか。

ローレライにもセイレーンにもなれない。

恨むことも二人を引き裂くこともできない。

「ビールでも飲むか」

「やだ、おいしくない。甘いお酒がいいよ」

マモルは缶ビールをあけ、一気に飲み干す。

「ほろ苦いよな、誰かを失うってさ」

マモルの声は水分を含んでいるようだ。

泣いているのかもしれない。

「……うん」

私もよく冷えたアルコールを喉に流し込んだ。

「痛いよな、翼もぎとられたみたいでさ」

「心がこなごなに壊れたみたいになって苦しくて息ができなくなる」

「ああ、そうだな。……それでも嫌いになれない」

海よりも深いはずのミツグへの想いが高く低く動いている波にからかわれるようにさらわれていく。

海の泡が消えていくように私の恋はこんなにもはかない。

昔作って遊んだ、ままごとのようなただのぬるい色水になってしまったカキ氷だったものを砂の上にかけた。

大地に吸収されていくレモン色の追憶。

零れ落ちた涙をぬぐおうともせずに暮れゆく空をにらみつけた。

変わらないものなどないのだろうか。

誰もが変わり続けながら生きていくのかもしれない。


築き上げたものが一瞬で崩れ去ることもある。

どんなに壊れていかぬようにしたとしても、守りぬくことができないものもある。

だから、今を、大切にしていきたい。

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