「まさか、親友に彼氏取られるなんて。ほんと、唄の世界みたい。I can't stop the lonelinessな心境」


グレープフルーツとレモンを絞った汁を、種を取り除きつつ、焼酎の中にいれて、ぐるりぐるりとかきわまし、一口飲んだ。


爽やかで癖になりそうな味である。


「それ旨いのか?」


大葉がおいしそうなササミ明太子揚げをつまんでいた隣の男がクールにつぶやく。


確か、さきほどの自己紹介で、ヒムロと名のっていたように思う。


「美味しいよ。飲んでみる?」


ヒムロは私のグラスを取り上げ、まるで水でも飲むみたいにごくりと一気に飲み干した。


間接キスだ。中学生、いや、小学生みたいなことを考えているなと、密かに笑った。


「けっこういける……で、今、アリスガワサン、独り身なら、俺とつきあってみる?」


ヒムロは代わりということなのか、自分の生ライムハイを渡して寄こす。


普通にそれを飲んでいる私もどうかしているが、ヒムロの質問も唐突である。


「アリス口説かれてる?ずるいじゃん、人気ナンバーワンのヒムロさん持ってくつもり?合コン興味ないとか言ってたくせに」


ボリューム満点の濃密なブラックのマスカラで決めた、今夜も美しく輝くマリアがおもしろそうに囃したてる。


マリアが耳元で囁く。


「いいじゃない、アリス。大人なんだし。お持ち帰りされちゃいな。いつまでも終わった恋ひきずってることないよ」



マリアや仲間たちにひやかされ追い出されるように、ヒムロと居酒屋を出てきた。



「友達の作品なんだよ。今、売り出し中」


連れて行かれた先は彼の部屋、ではなかった。


ギャラリーには美麗だが素人目にも強烈な熱気と個性が感じられる写真が展示されていた。


「座れば?」


クラシックモダンとでもいえばいいのだろうか。


洗練されたデザインの座り心地のよさそうなソファに腰を下ろしていた。


「……なんだかホテルのロビーにでもいるみたい」


「気に入った?」


「うん。……でも、お店の人誰もいないみたいだけど、勝手に観てまわっても大丈夫なのかな?」


「ああ、いいよ。ここ、俺の画廊だから。邪魔するものは誰もいない」


立ったままのヒムロは悪戯な笑みを浮かべ、驚く私を静かに見下ろした。


「ヒムロさんのオフィスってことなのね」


二人きりということか。


意識してしまったのか、次第にそわそわと落ち着かない気分になっていく。


それほど飲んだわけでもないのに、うるさいほどドクドクと高鳴りだした鼓動をどう抑えたらいいのだろう。


「ここじゃなくて、部屋のほうがよかった?」


ヒムロは私の横に座り、自然な動作で、私の肩に腕をまわし、そして、抱き寄せる。


「ここと部屋、それしか選択肢がないの?」


「そうだな、もうひとつあるな。あのドアをあけて、このまま、深く知り合うことなく出て行くこともできる。どれにする?」


低く甘く誘うような声に惑わされて、目をそらすことができない。


このままみつめあったまま、時が止まってしまえばいい。



言葉とは裏腹にヒムロは私の顎を軽く掴み、そのまますばやく唇を奪い、はなしてくれそうにもないほどきつく強く抱きしめられる。


思わず声が漏れてしまうほどの、もっと欲しくなるような、それは巧みな大人のキスであった。


しかし、ふいに、私を捨てた彼のことが蘇り、嗅ぎ慣れた彼のそれとは違う香りに戸惑い、わけもなく震え、怯え、ヒムロの胸元から逃れようとしていた。



「……嘘……つ……き」


「ちゃんと選ばせてあげたよ、2秒間」


私はヒムロのとぼけたような優しい表情に安心したのか、思わず吹きだしていた。


「残念ながら今日はここまで、もう開放してあげる。無理やり襲う趣味はないんだ。……震えてたけど怖かった?ふざけ過ぎたかな、俺?」」


そうではない、ヒムロのせいではないと首を横に振り続けた。


ヒムロは立ち上がり、男の色気に翻弄されて足元がふらついている私の手を取り、出口に向かって歩き始め、ドアの前で足を止めふり返る。


「俺と君のこの続きはあるのかな?」


私は、ヒムロの指先をぎゅっと握り、少しかすれた声で、話し始めていた。


「……ふられた男にね、プロポーズをされたの。でも、仕事が大変で、結婚どころじゃなくてもうすこし、待ってて欲しいって言ったの。私を好きなら待っててくれるって自惚れてたのね、たぶん。でも、だんだん、彼、冷たくなって、会うこともあまりなくなって……そんな頃かな。親友と彼が一緒にいるとこみちゃった。アリス、彼のこともらっていい?とか、言われて」


ヒムロは続けていいとばかりに微かに微笑み頷いた。


「親友はね、いつも何かにがんばってて、本当に、キラキラしていて、イイ女なの。だから、彼が彼女を選んだのも当然なのかもしれない。私にはとりたてて、やりたいことなんてみつからない。今を生きることで精一杯」


「何かでっかいことをやろうとするから、みつからないんじゃないかな。自分でできる範囲ならみつかるのかもしれないな。それに、目標なんて常にあるわけでもないよ。あてもなくさまよって、ふらふらとのたうちまわりながらでも、何かがみつかるかもしれないだろう」


「いいのかな、それで?何かに向かってひたむきに挑戦してる女のほうがかっこいいし、愛されるんじゃないかな。目標もやりたいことも夢もなにももたない私なんかじゃ、だめなんじゃないかな」


私はヒムロに背を向けた。


「そいつのこと、まだ好きなのか?」


「わからない。ただしがみついてるだけなのかも。愛じゃなくて執着なのかも。純粋に好きなら、彼のこれからの幸せ、願えるはずだものね。どうして私ばかりこんなにつらいのって恨んでる、憎んでる。これって愛なんかじゃないよね」


背中に温かで柔らかな熱を感じた。


背後から、ヒムロにそっと抱きしめられていた。


「目標、あるだろ?」


「な……に?」


「幸せになること」


「誰かを愛して愛されたりすることも?」


「……探してみないか?俺と一緒に」



首のあたりにクロスするように置かれたヒムロの手に自分の指先を重ねた。



やりたいこと、望むこと、みつからなくてもあせらない。

手の届くところから、変わりたいという気持ちを持って、始めてみよう。

小さな達成感でも積もり積もればやがて大きな自信と勇気につながるだろう。


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