「タク、これ学校からのプリントで、こっちはうちのおかあさんからの差し入れのカレーライス、あっためて食べて。おばさん今日も仕事で遅くなるの?」


タクは無言で頷き、だるそうに私が差し出したものを受け取る。


幼小中高と同じ校舎に通う同学年の幼馴染みで、家は隣り同士、母親同士も仲がいい。


中学の時、父親の浮気が原因で、両親が離婚して、そのせいか明るくてみんなのまとめ役だったようなタクが壊れたのもよくある話なのかもしれない。


「学校来ないの?」


「面倒だし、バイトあるし」


「・・・ユウヤもどうしてる?って気にしてたよ。なんかやばいチームとか入ってるって?」


「かんけーないじゃん、お前らには。俺がどこで何してようと」


「関係あるよ。タクのこと心配しちゃいけないの?」


「そういうの、すげえ、うぜーんだけど」


傷つき怯える私をジッと見つめ、ため息をついた。



「俺のことはもうほっとけ」




★★



昼夜働き続けていたタクの母親も疲れ果てたのか新たな人生を選びたかったのか、ありったけのお金を置いて、男と家を出て行ったと私の母から聞かされた。



タクがますます荒れ狂ってしまったのもよくある話だというのだろうか。





今にも降り出しそうな曇天であった。


友達から連絡を受けて、私とユウヤが駆けつけた時、静かな公園は意味のない戦場と化していた。


すでにぐったりとしている派手な服を着た男を蹴り続けているタクは夜叉のようであった。


血まみれになって倒れている男たちもタクがやったのだろうか。



「タク、止めろ!」


ユウヤは必死でタクの肩を押さえつけ静止させようとしていた。


「放せ、邪魔すんな」


「タク!お願い、もうやめて。・・・死んじゃうよ、その人」


私の止まらない涙が空からの冷たく激しい雨と交じり合う。


情けないほど小さな声しか出てこなかったけれど、私の叫びはタクに届いたのだろうか。


タクを後ろから抱きしめると、タクの動きが止んだ。


「もう、やめよう、もう、・・・」


「おまえら、どうしょうもなくうぜー」


空を仰ぐタクの顔にも雨が容赦なく降り注ぐ。


ふりほどかれることはなかったが、腕の中のタクはかすかに震えていた。


私にできることはなにもないのだろうか。


何もしてあげられない自分の無力さが悲しくなった。



★★



隣りの家の明かりが消えた。


たった一人の住人が帰ってきてる様子はない。


タクの携帯に連絡しても音沙汰なしで、ついには、彼自身が消息不明になってしまったのもやはりよくある話であろうか。




ポプラ並木の遊歩道を抜け、突き当たりにその店はあるという。


「あんた一人でいくわけ?やばいかもよ、あの店」


タクがよく遊んでいた女の子から聞き出した情報が記されたメモを握り締め、放課後、制服のまま、その町を目指した。


ユウヤは生徒会の活動で忙しい様子だったので一人で行くことにした。




カウンターから、いらっしゃい、と声がかかる。


見知らぬ制服を着崩した男たちの遠慮のない視線をいくつも感じた。


耳にはたくさんのピアス、髪の色は脱色なのか染めているのか、さながらヘアカタログのようである。


場違いであるとはわかっていたが、ムッとくる煙草の香りに辟易しつつも、店内を探るように目を細めた。




一番奥の席に長い足をテーブルにのせたタクがいた。


「一緒に帰ろう・・タク」



タクが私に気づくと、切れ長の目を大きく見開いて戸惑うが、すぐに、いつもの無表情な顔になって、迷惑そうに睨みつけてくる。


「お前、何してんの。さっさとここから帰んな」


予想通りの言葉だというのに傷ついている自分がいる。


「へえ、タクのダチ?つうか、彼女?」


タクは黙ったまま首を横に振る。


タクを想うだけでも許されないのだろうか。


タクがいてくれるだけで私の世界は虹色に輝く。



「ふーん。じゃあ、もらっていい?すげえ、タイプ」


タクはやはり何もしゃべらない。


タクの向いに座っていた茶髪の男がさっと立ち上がり、あっという間に私との距離を縮めた。


後ずさりするものの、すぐに壁に押し付けられた。


行き止まり、逃げようがなかった。


喉の奥でくっと笑い、怯える私の顎をとらえ、無理やり男のほうに向かせようとする。


「名前なんていうの?」


「・・・嫌・・・放して・・」


「タクが俺にくれるってさ」


「・・・タク・・・」




突然蹴りあげられたテーブルが耳ざわりな音を立てた。


コーヒーの入ったグラスが倒れ、液体が床にこぼれ散った。




「ほんとに、お前って、うざすぎんだよ。何でこんなとこまで来んだよ」




私に向かってそう怒鳴るとともに立ち上がり、茶髪男の胸ぐらを掴んで引き寄せた。



「そいつはやめとけ」


「へえ、珍しいな。女にあきたらいつもみたいに俺にくれんじゃなかったっけ?」




「ハルナは、俺の、だ。手、出すな!」



泣いたり怒ったり笑ったり
自信がなくて素直になれなくて
それでも精一杯生きていく。


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