[注:とにかく壮絶にフィクションです。登場人物、出来事は勿論。悪意もオチもありません。]





ニッタカナは言った。


「ねぇー暇ぁ。ビデオとか無いスか・・?」


特に意味は無い。
言ったとおり暇だったからだ。
寝て起きたら今がそういう時間に過ぎない事が、直ぐ解ったからだ。
彼女は、カナという女は、「退屈」と言うキーワードに引っ掛かる漠然とした状況に、耐え得る気質を全く持ち合わせていなかった。
TVは既に点いている。ベッドの上で胡坐をかきアクティブなPC画面を眺めている男が点けたのだろう。
しかし、男の右手には携帯、左手には雑誌が置かれている。
時折、口に運ばれるストローには実験用のビーカーから啜られる、ロイヤルミルクティーが走り、仄かに茶葉の香りが、そこからカナまでの距離を運ばれ鼻腔を刺激する。
男が操作する、マウスの横にあったリモコンを、カナが奪い、チャンネルをパチパチと変えても、気にする様子も無く。ただ、BGMとして黙々と司会者とゲストの対談を聞いているのみである。
男の名をサワムラシュンスケ


「さあ。。。ソコにあるけど。」


口を開いても数は少なく、しかも適当だ。会話も何もこの男には、あったものでは無い。
カナは指差されたダンボールの箱を引き出し開けると、なるほど、ビデオはあった。中に数十本。


「エロいのは?隠してんのぉ?w」


「ねえよ」


会話の仕方も知らない男だと、カナは苦笑した。
男の両手は、てちてちとキーボードを不規則なリズムで叩いている。


「どれが面白い~?怖いヤツじゃないのがいーんだけどぉ~・・」


ガタゴトと音を立て、知った風なタイトルを探してみるが見つけても結局は意味の無い事だと気づき、手を止める。
何気に手元に残ったビデオを見て、カナは男に視線を感じさせ、口を尖らせて聞いた。


「ねぇ~ねえ~!聞いてんの?コレ面白い?」


白いタイトルラベルには、ふざけたフォントで【バイオハザード】と小さく書かれてある。


「コレ怖いやつだっけ・・?」


念を押して質問するが、男はちらりと一瞥した後、そのまま10秒程固まっている。。。
両手の動きも無く、ただ、ぼーっとしているのである。
カナも暫し答えを待ち固まったが、返答は無く、無視されたのだとイラついて文句を言おうとした刹那、男は声を発した。


「ゾンビが出る」


「・・・。怖いヤツじゃん。。。面白い・・・?」


「あ~・・多分」


相変わらず適当な回答だが、答えないよりは随分増しであるし、何より無視した訳じゃない事に、カナは少しほっとしていた。
いや、それよりも、無視じゃない筈なのに空いた、あの時間が気になって仕方が無い。


「てゆーか。ナニぼーっとしてたの?さっき・・」


「え・・?あ~・・・イヤ。解んなくて」


「何が?・・・」


このシュンスケと言う男。
質問をするとたまに、答えるまでに幾分か間がある事がある。
何か考えている、思案しているのだといつか聞いた事があるが、その内容にもカナは少しばかり興味があった。
普段、理知的で聡明だと思える言動のこの男が、時間を掛け思案する内容など一体どんなものであろう?


「普通の人がさぁ。『怖い』って感じるものをオレは大抵、あんま怖くないのね。
だから、その対象に感覚する『怖さ』が解らんワケよ。
ソレのジャンルは『ホラーアクション?』だけどさ。ホラー嫌いな人は『ホラー』って付くだけで大体見ないだろ?
でも実際内容は、見たら面白いのかも知れないじゃん。
勿体無くね?オレは基本的に見て欲しいワケ。面白いから。
『怖い』かどうかトカ『ジャンル』とかで簡単に判断するのは理不尽に感じるさ。
だからどう言おーか迷ってさー。。。一応内容に触れる際立ったキーワードで言ってみたってワケ。
ゾンビなら解り易いっしょ?
つかジャンルとかに囚われ過ぎっぽくね?ふつーの人。。」


「・・・さぁ。。」


考え過ぎなのではとカナは思ったが、そういう男なのだ放って置いても害は無い。
それよりもこのビデオは使える筈だ。
カナは確かにホラー系統は苦手に苦手だが、実の所、エロでもホラーでもネタになればそれでよかった。
一緒にいるという行為、一緒に座っている行為、一緒に観るという行為、そして会話。
馴染む様に共有する感覚が大事であると、慈しむ様にカナは感じている。
押しても引いても手応えの無い、暖簾のようなこの男には、時折ガッシリと腕を組んで歩いたり、頭を腕と胸で丸ごと包み込んで話しかけたりと。
無理矢理にでも波長を合せようとするアクションが、結構に効果があった。


しかしシュンスケは、皮肉な事に、人肌の温もりが決定的に苦手な男であった。
勿論カナは、知らないではないが、手を焼いている事もまた事実である。
例え、ビデオを鑑賞する目的が最優先で提示されているとしても、終始にわたり、寄り添っていては嫌がられる事必至である。
夏などの暑くジメつく日は、特に、エアコン等で気温調節を心掛け、違和感無く抱きつき続けられる様に施すのだ。
これから観るこの映画は、そのチャンスがある。
カナは、今この場にいないその他の輩どもに差をつける為に、これを逃すわけには行かないのだ。

ジャンルなど、そう。

関係ない。





Text by ネコ
Thanks ニッタカナ エキオ