平日の午前10時
私は街のカフェにいた

目立たないよう抑えた色目だけど
精一杯おしゃれしたつもり

ドキドキしながら座っていると
私と同じような抑えた色目の男性が
お店に入ってきた

すぐに私の方を見て小さくお辞儀


 …彼なんだ

 

 

ドリンクを持ってきて
私の前まで来ると小声で

「…私さんですか?」

同じように小声で

「はい」

すると笑顔になり

「失礼します」

と言って私の前に座った

 

 

「今日はありがとうございます。
 わざわざ街まで出てきてもらって…」

「いいえこちらこそ…」


と始めに挨拶をしたけど
 

そこから何を話せばいいか分からない


だけど彼も同じだったようで
なかなか会話が始まらない

困ったな、と思い顔を上げると
彼も同時に顔を上げて目が合った

 

 

「…緊張しちゃって」

「…私もです」


そして2人で大笑い

なぜか分かんないけど
一気に緊張がほぐれた


そこからいろんな話をした


 すごく楽しい…

 

 

今日の予定は
”カフェでお話ししましょう”

なので
1時間ほどおしゃべりをして終了


「今度はもっと
 ゆっくりお話ししたいです」

「ありがとうございます。
 楽しみにしています」


2人はお店の前で別れた

 

 

 

電車に乗って帰るとき

たぶん私の顔はニヤけてたと思う


 こんな感じ…

 

 いつ以来かな…


彼のとの時間を思い出すと
自然と笑顔になる


 いいな…

 

 この感じ

 

 

 

 

…振り返ってみると

 私は”恋”がしたかったんじゃなく
 ただの”女性”になりたかったんだと思う

 ”母”でも”妻”でもない
 ただの”女”に

 だからこの時の感覚は
 単純に”恋に恋してる”だったと思う

 決して
 彼のことが好きになったわけじゃなく

 1人の女性に戻ったのが嬉しかったんだ…

 

 

 

 

途中で買い物を済ませ帰宅

急いで家事を始めたんだけど
私の顔はニヤついたまま


やがて帰宅した子供たちに

「あれ?ママなんか機嫌いいね」

とあっさり見破られるほど


分かりやすく浮かれていた

 

 

 

 

彼の恐ろしさに

全く気付いていなかった

 

 

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