カバンの中の発信機のようなもの以外は
何も見つからなかったけど

不安で仕方が無かった私は
目的地の駅前にあるデパートに直行し

スーツケースやバッグに財布などの
入れ物類を全部買い替えて


元の物は購入したお店にお願いして
引き取ってもらった


そしてそのまま
 

また長距離列車に乗って
別の街に向かった

 

 

最終的にたどり着いたのは


いちおう都会ではあるけれど
縁もゆかりもない遠く離れた街


当たり前だけど


知り合いなんか誰もいない



しばらくネットカフェで過ごして
住み込み可の仕事探し

住民票移さなくてもOKなとこ探したから
結構時間はかかったけど
何とか住むところは確保できた

 

 

 

仕事は工場派遣


今までやったことない工場作業だけど
 

派遣の業務は単純作業なので
未経験の私でも大丈夫だった


ただ

住民票移さなくてもOKなだけあって
かなりブラックな会社だった

とはいっても他に行くとこなんて無い


文句を言わず毎日働いた

 

 

 

派遣だからそんなに残業も無く
毎日規則正しい生活

女子寮にいる人たちは
なんかみんな”訳アリ”っぽい

だからなのか


女性ばかりなのに
あんまりワイワイしていない

むしろ

人と距離を置きたそうな人ばかり


なので今の私にとっては
 

案外居心地がいい

 

 

 

でもそんな環境だと

夜がとても長く感じる


だから

色々思い出してしまう


消し去りたい過去なのに
頭に浮かぶのはあの暗黒の日々


そして

先輩への怒り

 

 

だけど今になってみると
全部先輩の言う通り

私が自分で選んだこと

たとえそこに導かれたとしても
最終的に選んだのは自分自身


あんな生活になったのも

なるべくしてなったんだと

そう思えるようになった

 

 

 

あのタイミングで逃げたのが
 

正解だったかどうかは分からない


でもそれまでを考えると

彼は私が落ち込んだ時に
いつも優しくして
 

私を彼に依存させてきたように思う


実際に私は

 

彼の言葉に

全て従うようになってしまった



だから

 

あの先輩のタネ明かしも
 

そのためのものだったような気がする

 

 そう考えると
 

 夫と先輩っていうのも嘘くさいよな…

 

 それよりも

 

 先輩と彼がグルで

 夫が協力したって考える方が自然かな…

 

 なんとなく先輩は

 彼に堕ちそうな女を紹介して

 紹介料貰ってるような気がするな…

 

 だから最初にあのお店に入った時の
 ボーイさんたちの先輩への対応って

 今考えると身内感満載だよね…

 

 

 

なんていろいろ考えるけど

 


今となってはどうでもいい



彼の操り人形になってたとはいえ
あんな仕事をしてしまった以上
 

私は彼の”商品”

 

だから私は

彼から逃げ続けなきゃいけない



手持ちのお金はまだある

でも

 

あんなことして稼いだお金


本当は全部使ってしまいたいけど
 

こんな逃亡生活してたら
何があってもおかしくないので
 

とりあえず残してある

 

 

通帳を出して眺めるクセ

 

ここに来ても時々無意識にしている

 

まだけっこうある残高を見て

ふと気付いた

 

 

 もしかしてあのタネ明かしって…

 

 このお金を狙ってたのかもな…

 

 また私を落ち込ませて

 このお金を使うように誘導するとか…

 

 ”落として上げる”がアイツらの手口だから

 やっぱそんな気がするな…

 

 

 まぁ…

 

 今さらどうでもいいか…

 



 考えてみれば

 

 こんなブラック会社なら
 ”その筋”とも繋がりがあるかも

 だから


 しばらく働いたら

 また違う街に行かなきゃな…




 いつまで続くか分からないけど
 

 私はこの逃亡生活を
 

 これからも

 続けるしかないんだろうな…

 

 

 

 

 どこで間違えたんだろうな…

 

(終)

 

 

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