そんな日々が数か月経ち


相手する”客”の数も落ち着いてきて
だんだんこの生活にも慣れた頃


私は通帳を見るのが習慣になっていた

 

 

もともと友達が少なかったし

なんとなく今の私を知られたくなくて

こちらから連絡を避けていたら

自然と連絡も来なくなって

 

完全に孤独な状況になった

 

だから

お相手した後にもらうお金も

生活費ぐらいしか使わないので

ほぼそのまま銀行に預けてたら


いつの間にかいっぱい貯まっていた


通帳には預けた日付と金額

 

いつもそれをぼんやり眺めて

自分の”今まで”を振り返る

 

 

 こんなにいっぱい

 ”お仕事”したんだな…

 

 

もう普通の生活に戻れるだけのお金は

十分にあった

 

だけど私には

 

そんな選択肢は浮かばなかった

 

 

なぜなら

 

私がこの”お仕事”を辞めたら

 

彼はもう

会ってくれなくなるかもしれないから


私の頭の中は彼だけ

 

彼の言葉に従うことが私の全て

 

でも…

 

 

そんな想いから

 

気が付けば通帳を眺めている

 

 

自分でも良く分からなかった

 

 

 

そんな時に


スマホに先輩からの着信

 

 

 …え? 先輩だ!


 

慌てて電話に出る


「もしもし?お久しぶりです!」

しかし相手は先輩じゃなかった

「やっと連絡ついたよ。
 お前、今どこにいんの?」


夫だった

 

 

「え?なんでアンタが先輩の電話で?」


想定外の夫の声に
一気に不機嫌になる私


「連絡つかないから
 先輩にお願いしたんだよ。
 お前、いつになったら
 荷物全部引き上げるんだよ」

「そんなこと?
 もういらないから全部捨ててよ」

「ふざけんなよ!
 なら全部お前の実家に送るぞ?」

 

 

 さすがにそれはマズい


「…分かったわよ。
 いつ行けばいいの?」

「今度の土曜日午前中に取りに来い!
 お前の物はまとめてあるから
 残さず持って行けよ」

「はいはい。
 あ、先輩って横にいるの?」

「いるよ。代わるわ」


 久々に先輩の声が聞ける

 

 

「もしもし?私ちゃん?久しぶり!」

「先輩!お久しぶりです!
 ご迷惑をおかけしてスミマセン」

「いいのよ。だって私も
 お仕事で迷惑かけちゃったから」

「迷惑だなんてそんな」

「でも私ちゃん、
 ”立つ鳥跡を濁さず”だよ」

「はい。ごめんなさい」

 

「まぁ、ちゃんと話もしなよ。
 じゃぁまたね」

「はい!ではまた!」


久々に先輩の声が聞けて
とても嬉しかった

さすがに

”今のお仕事”のことは言えないけど
数少ない”今の私”でも話せる人


 色々あって忘れてたな…

 

 

 

土曜日になり
またレンタカーを借りて


久々に夫と暮らした部屋へ


 またここに来ると思わなかったな…


慣れたエントランスを通り
玄関を開けて入ると

なぜか先輩もいた


「あ~いらっしゃい。
 久しぶりでしょ、この部屋」

「あ? え? なんで先輩が?」

「なんでって私の部屋だもん」

 

「えぇ? どういうことですか…?」

「どういうって(笑)
 そういうことよ」

「え… まさか夫と…」

「まだ籍は入れてないけどね」

「そんな…」


あり得ない展開に

 

理解が追い付かない


「お前に関係ないだろ。
 ほら早く荷物持ってけよ」

 

 

見るとそこには


もう着ないような衣類や小物が

雑然と積まれている


”悪意”を感じた


「なんなのいったい…
 こんな状態で置いとくんなら
 さっさと捨てればいいでしょ!」

「わざわざまとめてやったのに
 なんだその言い草は(笑)」


夫がバカにしたような眼で私を見る

 

さらに横を見ると


同じ目で先輩が

うすら笑いを浮かべてる


「先輩…

 どういうことですか…」

「どうもこうも無いってば(笑)
 自分で考えてごらんよ」


そこで気付いた


 まさか…

 

 もともと先輩は…

 

 

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