夫が去っていって
私の頭に浮かんだのは彼のこと


 彼に迷惑かけちゃった…

 もう会えないかもしれない…


夫にバレたことで
ルール違反になったことは確実


 もう会えないなんて嫌だ…

 

 

夫に対する申し訳なさなんて
欠片も無かった

両親にバレたことも
私の中では大した問題ではない


彼との幸せな時間


それだけが
私のすべてだったから

 

 

思わず私は彼に電話していた

すると彼がすぐに出た


「あ、私さん。大丈夫だった?
 って大丈夫なわけないか(笑)」


いつもの優しい彼の声


「あなたに迷惑かけちゃった…
 本当にごめんなさい…」

 

「今どこにいるの?」

「あ… さっきのホテルの前です」

「そうか。迎えに行くから待ってて」


意外なことに
彼は全く気にしていないみたい

戸惑っていると
白い高級車が路地を入ってきた


彼だった

 

 

「さ、乗って」

言われるがままに車に乗り込むと
そのまま彼は車を発進させた


「ダンナさんとはどうなったの?」

「あ…

 早く荷物まとめて出ていけって…」

「まぁそうなるよね(笑)」


優しく笑う彼


その姿を見てなんだか安心した

 

 

「良かったら部屋紹介しようか?
 ちょうど今使ってない1Rあるんだ」

「え? いいんですか?」

「全然大丈夫だよ。
 君が良ければ、だけど」

「ありがとうございます…
 どうしようと思ってたので…」

「決まりだね」

 

 

そのまま彼は車を走らせ
住宅街の中まで来ると


見るからに高そうなマンションの

地下駐車場に入った


「え? ここですか…?」

「そうだよ。静かでいいところだよ」

「いや、そうじゃなくって…
 こんな高そうなマンション…」

「だから、使ってない部屋だから
 全然気にしないでいいよ(笑)」

 

 

そう言いながら
後部席に置いたカバンに手を伸ばし
中を探し始めた


「あ、そうじゃなくって…
 家賃払えそうも無くって…」

「緊急避難だから気にしないで。
 払えるようになったら、でいいから」

「あ、そんな…

 ありがとうございます」

「あ、カギあった(笑)
 じゃ、行こうか」

 

 

案内されたのは
今住んでる2LDKより広い1R

部屋の中には
高そうな家具が入っていて
すぐに住める状態だった


私が呆気に取られていると


「はい、これがこの部屋のカギ。
 自由に使っていいからね」





これが地獄の始まりだと
 

予想もできなかった

 

 

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