最初の恐怖も落ち着いてきて
周りを見渡す余裕も出てきた

すると

みんな普通に
楽しく飲んでいるように見える


ここだけ見れば
どこにでもあるバーのようだった


「ね、別に怖いことないでしょ?」

「あ、はい… そうですね」

 

 

そしてよく見ると
年齢層が幅広かった

さすがにお年寄りクラスはいないけど
男も女も”現役”感がある客層


ただ…

女性の衣服は
かなりきわどいのを着てる人が多かった


「女性はみんなセクシー衣装?」

思わず口にしていた

 

 

「違うわよ(笑)
 あれはみんなアピールしてるだけ。


 冬はコートで隠せるけど、
 あんなカッコで出歩けないよ(笑)
 

 だいたいみんなここで着替えてるの」


「ですよね、ビックリした(笑)」


「ここはフリードリンクだから
 何を頼んでもOK。
 まぁみんなそんな飲まないけどね」

 

そんな会話をしていると
 

ボックス席の数人が席を立って
奥の部屋へと消えていった

 

 

「え…? あれ…」


「どうやらお互い気に入ったみたいね」


「いやそうじゃなくって、
 みんなで行ったってことは…」


「だから、みんなでするんじゃないの?」


こともなげに言う先輩

SEXは1対1だと思い込んでいた私は
その光景に衝撃を受けた

 

 

「ここではね、何でもアリなの。


 だからどんな性癖の人でも
 同じ人がいれば成立するわけ。
 

 さすがに店内はスカトロNGだけどね」


最後の例えはよく分からなかったけど
 

”何でもアリ”のワードに
私はなぜか惹かれてしまった

 

「だから…

 私みたいな女でも
 なんにも恥ずかしがること無いって?」


「呑み込み早いね(笑)
 そういうことよ」

 

 

私が前のめりになったことを察した先輩


すかさずくぎを刺した


「ダメだよ。
 誰でもいいわけじゃないんだから」


さっきまでとは違う強い声

その声で
自分が舞い上がってるのに気付いた


「そうですよね…
 すみません舞い上がっちゃって…」

 

 

「まぁ…

 こんなとこ来たら無理ないけど(笑)
 

 とりあえず今日は紹介しただけ。
 社会見学みたいなもんね。
 

 詳しいことは外で話すから
 そろそろ出ましょう」


そう言って先輩が席を立つと
ボーイさんが出口を空けてくれた


玄関前のカウンターで
先輩がボーイさんに軽く会釈をすると

そのまま外に出られた

 

 

「あれ?お会計は…?」

「今日はタダ。
 会員がゲストを紹介しただけだから」

「でも結構飲みましたよ…」

「その分、正規料金高いから(笑)
 後でちゃんと説明するわ」

「そうなんですか…
 ありがとうございます」

「何のお礼よ(笑)」

 

 

 

もういい時間になってたので
マンション前で先輩とお別れして帰宅した



 それにしても…

 あんな世界があるんだ…



待っててくれた夫のことは眼中になく

私は”この先”への期待でいっぱいだった

 

 

 

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