やがて夫が口を開いた

「うん…

 分かったよ」


その言葉を聞いて
また私は号泣してしまった


「もう泣かなくていいから…」


気付くと夫の表情が
 

以前の優しい夫になっていた

 

 

 

「前にも言ったけど
 どうしてなんだろう?
 俺の何が悪かったんだろう?
 そんなことばかり考えてた

 だけど
 君の話を聞いて気付いたよ

 やっぱり俺も悪かったんだって」



驚いた私は慌てて否定した



「違うよ…

 私が全部悪いんだよ」

 

 

 

でも夫は首を振りながら続けた

 



「起きたことだけ見ればね。

 でもそのきっかけは
 お互いのすれ違いだった

 そして君は俺に
 苦しさを言うことなくため込んで

 俺はそんな君の
 苦しさに全く気付けなくて…」

 

 

「だから違うの…
 私がダメな女だったから…」



「そうだったのかもしれないけど
 それを含めて夫婦なんだから
 2人で乗り越えなきゃ
 いけなかったんじゃないかと思う

 あの日君から
 仕事を辞めようかと言われたとき

 安易に励ますんじゃなくて
 君に寄り添うべきだったんだって」

 

 

 

そんなことは考えたことなかった

 



「でも…
 別にあなたは間違ってなんか…」


「例えば会社の上司としてなら
 正解の対応だったかもしれない

 だけど俺たちは夫婦なんだから

 キャリアがどうとかよりも
 君自身を思いやるべきだったんだって…

 時は戻せないけど
 あの時に間違えなければ、ってね」

 

 

「あ… そんな…」


「それに…
 彼の奥さんって同級生なんだってね」


「あ、そうです…」


「あの時は混乱してて
 奥さんの言うがままにしてたけど

 1人になって時間が経ってみると
 なんか違うなって感じがして…

 もう一度ちゃんと話そうって思ったんだ」

 

 

 

あぁ… やっぱり彼女だったんだ…

 



「君の話を聞いて
 やっぱりすれ違ってたんだなって…

 だから
 俺も君に謝罪しなきゃいけない

 君を1人にさせて

 すべて背負い込ませて…

 本当にごめんなさい」

 

 

 

まさか夫から謝罪されるなんて
思ってもいなかった私



「ありがとうございます…
 そんな風に思ってくれるだけで…」

そう言いかけた時
夫が私の言葉を遮って続けた



「でも…
 

 やっぱり元には戻れないって
 はっきり分かったよ」

 

 

 

夫の顔が悲しい表情になった



「君とこうして向き合ってて…

 正直 幸せな自分がいる

 だけど…

 どうしても許せない

 もう1人の自分がいるんだ…」

 

 

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