やはり、というか案の定

上司の奥様から突撃された


以前にも人事に突撃したから
来るだろうなと思ってたので
予想通りではあったのだけど


まさか会社の前で待ち伏せされるとは
思ってもいなかった


「私さんですね?」

帰宅しようと
会社を出たところで呼び止められた

 

振り返るとそこには
私より1周りぐらい上の感じの女性


「私、上司の妻です。
 お話があります」


逃げるわけにもいかないので
そのまま近所の喫茶店へ

席に着くと
私から頭を下げた


「誠に申し訳ございませんでした…」

 

 

「いいわよ謝らなくて。
 それにもう”元妻”ですし」


「あ…

 離婚されたんですか…」


「えぇ、アナタのおかげでね」


謝らなくていいと言いながら
強烈な一撃


「それにしても、
 なんでアナタみたいな冴えない女に…」

奥様は私を射るような眼で見据えた

 

 

「まぁ、今となっちゃ
 どうでもいいんだけどね。
 

 だけど
 あんなクズ男でも”家庭”があったの。
 

 アナタ知ってたでしょ?」


「あ…

 はい…」


「アナタのおかげで
 1つの”家庭”が壊れたの。
 

 私は”夫”を
 

 子供たちは”父親”を失ったの」


「はい…

 すみませんでした…」

 

 

「だから謝らなくていいって!」


私を見据えたまま奥様が再び言った


「最初はね、
 あなたに誘われて仕方なくって言ってた。
 

 私もそれを信じてたんだけど
 

 左遷されるって聞いたときに
 なんかおかしいと思って
 ホントのことを言えって責めたの。
 

 そしたら、
 アンタが離婚で悩んでたのに付け込んで
 酒飲ませてヤっちゃったって白状したわ。
 

 もう目の前が真っ暗になったわよ」

 

 

 そうか…
 あの状況をまとめるとそうか…

他人から言われて
初めて客観的に上司との件を理解した


「でもそれだけで左遷?って
 さらに問い質したら
 

 その後もしつこく誘ってたのが
 バレたからって…
 

 開いた口が塞がらなかったわ」


けっこうちゃんと白状したんだって
妙に感心してしまった

 

 

「まぁ、そんなわけで
 愛想つかして離婚したんだけど。


 でもね、

 アンタにも一言いいたくて」


「あ、はい…」


「確かにアンタは
 付け込まれただけかもしれない。
 

 でもね、
 そうなる可能性をアンタ頭に入れてた?」


「いえ…

 信用してました…」


ここで奥様が大きなため息をついた

 

 

「たとえ信用しててもね、
 男と飲みに行くなら警戒するのが普通よ」


「はい…

 その通りだと思います」


「だからね、
 アイツが悪いかもしれないけど、
 私はアンタも同罪だと思ってる。
 

 その結果、
 私たち家族はバラバラになった。
 

 その引き金をアンタが引いたってこと、
 それだけは覚えておいて欲しいの」


いつの間にか
 

奥様は涙目になっていた

 

 

「アンタがいなければ
 私たちは幸せな家族のままだった…」


そう言って

奥様は急に立ち上がり
千円札をテーブルに置くと
 

足早にお店を出て行った


1人残された私は
テーブルの千円札を見つめながら


愚かな自分が
 

周囲を不幸にしたことを痛感した

 

 

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