話し終えた夫は
また私から目をそらし
遠くを見つめていた


 どうしよう…

 どうしよう…


とにかく謝らなきゃと思った私は
夫に向かって土下座した


「ごめんなさい…」

 

 

何とか言葉を絞り出したけど

そこで私は号泣してしまって
何も言えなくなった


でも

夫は全く反応しなかった


ただ重い時間が過ぎていった

 

 

やがて私が泣き疲れて静かになると

夫は立ち上がり
私を見下ろしながら告げた


「俺よりあの男が良いんだね。
 分かった。
 離婚しよう」


恐れていた言葉が夫から出た

 

 

「違う! 違うの…
 彼の方が良いなんて無い
 私は… わ、私は…」

咄嗟に否定したけど
その後の言葉が出てこない

そんな私を見て
また夫が悲しい表情になった


「…まだ嘘をつくんだね

 いまさら何を言っても
 あの君の表情がすべてだよ

 君が愛しているのは俺じゃない」

 

 

 違う…

 違う…


言葉が出てこない私は
夫を見上げなら首を何度も振った


だけど

夫には何も響かなかった


「もうやめよう…」

 

 

悲しい表情のまま夫が続けた


「なぜ君が不倫したのか

 未練がましいかもしれないけど
 今でも信じられないよ

 俺に不満があったのか

 俺に悪いところがあったのか

 このことを知ってから
 いったい何が悪かったのかって
 

 どれだけ考えたか…」

 

 

「だから… 違うの…
 あなたに悪いとこなんか…」

何とか言葉が出た

でも夫は
私の言葉を遮るように続けた



「だからもういいって…

 君が帰ってくるまで色々考えてたけど

 なぜなのかを知っても
 いまさら
 どうしようもないって気付いたよ」

 

 

「え…」


「理由なんかどうでもいい

 はっきりしていることは
 

 君のあの幸せそうな笑顔が
 俺に向けられたものじゃないこと

 もうその時点で
 俺たちは終わってるんだって…」


そう言うと夫は

そのまま出て行った

 

 

 

振り返ることなく出ていく夫を
私はただ見ているしかなかった

1人になった部屋で
私は号泣した



 …何やってたんだ私

 

 

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