やがて泣き止んだ夫は
静かに立ち上がると

私の前に
分厚い封筒を置いた

「中を見て…」

力無い夫の言葉に従い
封筒の中を見ると


そこには調査報告書が入っていた

 

 

崩れるように床にへたり込む私

調査報告書の表紙を見たまま
全身の震えが止まらなかった


「中身は言わなくても分かると思うけど
 君の不倫の調査報告書だよ」


何も言葉が出てこない


「…もう嘘はつかないんだね」


夫の言葉が
追い打ちをかける

 

 

「この前から君が
 おかしなことを言ってるように感じて
 もしかしたら、と思って依頼した。

 気のせいであってくれ

 そう思っていたけど

 結果を聞いて愕然としたよ…

 なんで? どうして?って

 報告書を見ても信じられなかった…」

 

 

 誤魔化してたつもりだったけど
 やっぱり不自然だったんだ…

 なんとなくそんな気はしたんだけど…


気付いていたのに
見て見ぬふりをした

そんな私の愚かさが招いた必然

過去が頭を駆け巡り始めたら
夫が続けた

 

 

「どうしても信じられなくて
 今日はレンタカー借りて尾行したんだ

 気付かれないように
 変装までしてさ

 君が来ないでくれと祈りながら
 駅前の駐車場で待ってたら


 報告書で見た男が現れて

 やっぱり本当だったんだって…

 

 

 しばらくしたら君が
 

 男の後ろからついてきて


 車に乗ったらすぐに
 

 君から抱きついて


 そして…



 キスをして…



 目の前が真っ暗になったよ…

 

 

 ランチしてから行くだろうから
 ホテルに先回りして
 駐車場が見える場所に止めて

 虚しい願いだと分かってるけど…



 来ないでくれと祈ったけど…


 やっぱり君が来て


 男にしなだれかかりながら
 

 ホテルに入っていく君を見て…


 ようやく現実なんだと受け止めたよ…

 

 

 何より悲しかったのは

 君の笑顔が

 とても幸せそうな笑顔が


 俺じゃない
 

 別の男に向けられてること…


 もう限界だったから
 そこから泣きながら帰ったよ

 今までの君との日々は
 いったい何だったんだろうって…」

 

 

 

私は夫の言葉を

呆然としたまま聞いていた


いつの間にか震えは止まって


涙があふれだしていた

 

 

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