翌日は先輩秘書が通常出勤だったので
お礼がてら出社した

「おはようございます。
 昨日は突然休んでスミマセンでした」

所長は私の顔を見るなり
所長室に逃げ込んでしまった

一瞬目が合った時に
思いっきり睨んでやったけど(笑)

とりあえず大丈夫そうで安心した

 

 

「おはよう。
 ちょっと打ち合わせしようか」

 


そう言って先輩秘書は別室に向かった
慌ててついて行く私

部屋に入るなり私は頭を下げた

 


「ありがとうございます!
 こんな私を助けていただいて…」

 


「いいのよ~顔を上げなさい!

 

 だいたい所長のあのやり口は
 女性を舐め切ってるから
 絶対に許せなかったの(笑)」

 

 

先輩は豪快に笑った後
さらに続けた

 


「あなたのしでかしたことは知ってるわ。
 だから正直言って
 私も最初は色眼鏡であなたを見てた。

 だけど畑違いの仕事を
 あんなに食らいついてモノにして…

 それに会社の職制上では
 あなたの方が私より上なのに
 謙虚に私から学ぼうとしてた。

 私は”今のあなた”を見て味方したの」

 

 

 

こんな私を…

今の私を見ててくれたんだ…


「あ、ありがとうございます…」

 


それ以上は言葉にならない

 

泣ている私を

先輩が優しく抱きしめてくれた

 


「あなたが頑張ってるのは分かってるよ。
 これからも何かあったら頼ってね。
 …あ、私が産休に入る前にね(笑)」

 

 

 

それから先輩と私は
まるで一心同体のように仲良くなった

それに先輩のおかげで
事業所の他の方々とも
だんだん打ち解けることができた


そして先輩が産休に入る直前
 

 


所長の異動と

 

私の本社復帰の辞令が出た

 

 

 

「良かったね~!本社復帰だよ!」


信じられない辞令に

私が呆然としていると

 

先輩が

まるで自分のことのように喜んで

 

また私を抱きしめてくれた


この人に出会えて良かった

心からそう思った

 

 

 

先輩の産休に入る日と
私の本社転勤日が同じ日

なのでお互いに送別ということで
2人でちょっと贅沢なランチに行った


「先輩、本当にありがとうございました。

 

 先輩のおかげで救われたのに、
 その上、今回の本社復帰の後押しまで
 していただいて…」

 


「あれ? 何で知ってんの(笑)」

 

 

「本社の同期から聞きました。

 

 秘書室のマネージャーが

 ご家庭の事情で急遽退職することになって

 

 本社秘書室には適任がいなかったから、

 秘書室長から先輩に
 適任はいないかと尋ねられて

 

 私を推挙いただいたと聞きました」

 


「みんな口軽いなぁ(笑)

 

 まぁ前にも言ったけど、

 あなたは頑張ってる。

 

 だから私は

 純粋に適任だって伝えただけ」

 


「いえ、先輩の推挙が無ければ…

 

 それに同期から聞いて

 ビックリしたんですけど

 

 先輩って

 元々総合職だったんですか?」

 

 

「だからみんな口軽すぎだって(笑)

 

 まぁ私はこの事業所に転勤になった時に
 今の旦那に捕まったもんだから
 転勤のない事業所限定社員になったの。

 

 ちなみに、ここの所長ポストって
 出世コースの1つなのね。

 

 だから私、

 偉いさんに顔が効くのよ(笑)」

 


なんて豪快な人…

しかも自分がスゴイことを
自分から決して言わないって…

 


私の目指す姿を見つけた気がした

 

 

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