ようやく1人でも

業務ができ始めた私

 

先輩秘書さんに代わって
私が随行することも増えた

 


「今夜の接待だけど…
 君が随行だったね?」

 


「はい、私が随行します。
 二次会となった場合のお店ですが…」

 


「あ、いやそれより
 営業部長が急遽トラブル対応になったから
 代わりに君が接待の席に出てくれないか?」

 

 

「承知しました。
 では、コンパニオンがいる席なので
 私は営業のお話をした方が良いでしょうか?」

 


もともと私は営業だったので
接待の営業トークなら慣れていた

 


「ん~…

 そこは課長もいるから…
 まぁうまく立ち回ってくれ(笑)」

 


なんか無茶振りだなと思いつつ

 

それでも久々の営業接待に出席で
ちょっと嬉しくなっていた

 

 

 

接待の席は3対3の6名

 

会席になったら
3人の間にコンパニオンが1名後ろに着くので
全部で10名の席になる

先方は当社の大口取引先

 

しかも一番偉い人は
こちらの支店長としてやって来た方で
肩書は「執行役員兼○○支店長」

(失礼の無いようにしないと…)

久々の接待の席で緊張気味の私

 

 

簡単な挨拶から始まり
目的の商談の最終確認

条件面でもめることも無く
スムーズに商談は合意できた

タイミングを見計らって
私は席を外し

会食開始をお店に依頼

料理とお酒の用意は万端
簡単に確認して

コンパニオンさんに声掛けし
席に戻る

 

 

「失礼します」

 


声を掛けて

会食が始まることをお知らせする

 


…うん

我ながらここまでは完璧

 


すると所長が私に目配せしている

いけない、今回は私も出席者側だった

 

慌てて席に着くと

 


「ようやく戻ってきましたね(笑)」

 


先方の支店長の一言で場が和んだ

 

 

「中座して大変失礼しました」

 


「いえいえ、秘書さんですから
 ご自身の業務をされてただけですよね。

 

 どうぞお気になさらず、
 ここからは食事を楽しみましょう」

 


なんて紳士的なお言葉
やっぱり大企業の偉いさんは違うな~

 


コンパニオンさんがいるから
私がお酌して回るようなことも無く

 

会食は和やかに進んでお開きとなった

 

 

 

「お時間よろしければ
 この後いかがでしょうか?」

 


「ありがとうございます。
 そうですね、

 もう1軒行きましょうか」

 


支店長も上機嫌のようで
所長のお誘いに応じていただいた

 


「あ、私さんは無理してお付き合い
 いただかなくて結構ですよ。

 

 ここからはプライベートですから
 秘書業務は終わりってことで(笑)」

 

 

さすが超大企業
コンプライアンスに厳しいんだな(笑)

とは言ってもこのパターン
ここで「お言葉に甘えて…」は悪手だよな

 


「お気遣いありがとうございます。

 

 ですがせっかくの機会ですので
 ご一緒させていただければと思いますが…

 

 よろしいでしょうか?」

 


「嬉しいですねぇ(笑)
 では一緒に参りましょうか」

 

 

所長の方を見ると…
小さくうなずいている

よし 正解だったな


二次会はホテルの中のバー

 


店に入る前に所長が私に耳打ち

 

「…くれぐれも粗相の無いようにね」
 

 


私はこの言葉の意味に気付かなかった

 

 

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