期限だった1か月後の指定日

私は弁護士事務所に行き
色んな書類にサインをした

「離婚届はこちらで提出しますが
 私さんの苗字はどうされますか?」

後から旧姓に戻すのは手続きが必要なので
旧姓に戻すなら離婚届提出の時の方が、
と弁護士さんに尋ねられたけど

 

私の答えは決まっていた

 


「私は夫の姓のままで生きていきます」

 

 

私はこのまま
一人で生きていくと決めていた

もしかしたら
新しい出会いがあるかもしれない

でも

 

もしそんな人が現れても
私が応じることは絶対に無い

 

 


私は生涯

 

夫の妻で

 

息子たちの母でありたい

 

 


たとえ夫が再婚したとしても
 

その気持ちが変わることは

絶対に無い

 

 

だからといって

 

夫や息子たちを

待ち続けるんじゃない


許してくれるのを

求めてなんかじゃない

 


もう私たち家族は終わった

 

私が家族を崩壊させたんだから…


これは私自身が課した戒め

私が家族を裏切った戒め

 


これ以外に考えられなかった

 

 

 

すべての書類にサインを終えて
弁護士さんにお礼を言って
事務所を後にした

「終わったんだ…」

無意識に言葉にしていた
涙がこぼれそうになったけど耐えた
 

 

後悔と反省は当たり前

 

それを胸に前向きに生きるんだ

 


自分に言い聞かせながら
意識して顔を上げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから2年が経った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか前職を活かせる職を見つけ

地域限定だけど「正社員」になった

 

両親には「私の生活基盤ができるまで」

ってお願いして同居させてもらった

 

実は

 

夫の姓のまま

夫の妻として

息子たちの母として

生きていこうと決心したんだけど

 

働き出して

もう一つの目標ができた

 

私の秘かな目標

 

それは

「息子たちに遺産を残すこと」

 

もちろん

あの慰謝料には一切手を付けてない

 

両親はこのまま一緒に、

と言ってくれるけど

 

私は1人で生活しようと決めていた

 

 

ちゃんと前を向いて生活して

胸を張れる生き方をしようと

 

 

もしかしたら

受け取り拒否されるかもしれないけど

それでもかまわない

 

お義母さんの励ましのお言葉通り

「私が前向きに生きた」証を残したい…

 

 

 

そんな想いで

そろそろ新居先探しをしようかと思った頃

 

 

 

 

私のスマホに着信があった

 

 

 


表示された名前…

 

え?
 

慌てて電話に出ると

懐かしい声が聞こえた

 


「もしもし… 私さん?」

 

 


夫からだった

 

 

突然のことに

スマホを持つ手に力が入る

 


「あ… あなた…」

 


一気に涙があふれた

 

夫に気付かれないよう
なんとか耐えながら口を押えた

 

 

「よかったぁ…
 番号変わってなかったんだね」

 


「電話ありがとう…
 あなたの声が聞けて嬉しい…」

 


こらえても声が震える

 

夫に分かっちゃったかな…

そう思っていたら
夫から思わぬ言葉が

 


「あのさ…

 長男がもうすぐ卒業なんだ。
 だから卒業式に来てくれるかな?」

 

 

あぁ…

 

もう無理

 

 

声を上げて泣いてしまった

 


「大丈夫…?」

 


「うん…

 

 大丈夫だよ…

 

 まさかそんなこと言ってくれるなんて

 

 う、嬉しくて…」

 


「来て… くれるかな?」

 


「本当にありがとう。

 

 でも… 私は…」
 

 

「長男が

 来て欲しいって言ってるんだ。

 

 もう俺もだいぶ落ち着いたし
 前のように感情的にならないと思う。

 

 だから…

 

 長男のために来てくれないか?」

 


「はい…

 ありがとうございます…」
 

 


思いがけず再会することになった

私は神様に感謝した

 

 

【BACK NUMBER】
遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心

初めての挫折 優しさの罠