「…こういった経緯です。

 ご理解いただけたでしょうか」

 


「…はい

 …よ、よく分かりました」

 


店長が私のために…

 

こんな過ちをした私のために…

 


私は声を上げて泣いた

嬉し涙だった

 


「店長さん…

 ありがとうございます…」

 

 

私が落ち着いてから弁護士さんが
今後の方針とかを説明してくれた

 


「まず現在行っているのは
 会社の不法行為の確認です。

 

 法的なことはもちろんですが、
 倫理的な部分も含めて検討中です。

 

 そのために店長さんをはじめとした
 関係者に確認しています。

 

 それらが固まり次第、
 会社に話し合いを申し入れる予定です」

 


「まず話し合いをして、その後に訴訟…?」

 


「そういう流れになると思います」

 

 

「あの、店長さんはどうなるんでしょう」

 


店長さんが訴えられるというのは
本人の意思とはいえ申し訳なく思った

 


「今のところ、ですが
 店長さんに責任は無いと考えています。

 

 会社は彼の問題について
 配属にあたり直属上司の店長さんに
 その事実を伝えていません。

 

 この部分についても
 会社は安全配慮義務を怠った、
 と言えると考えています。

 

 それをしなかったがために
 同様の問題を彼が起こしたわけですから」

 

 

「でも店長さんは

 知っていたんですよね…

 

 会社が知らせなくても、とは
 ならないんでしょうか?」

 


「あくまでも店長さんが知っていたのは
 同僚からの伝聞なので

 それを真実として対応しなければといった
 業務上の義務はありません」

 


「そうですか、少し安心しました」

 


「店長さんがご心配だったんですね」

 


弁護士さんが優しく微笑んで
私の気持ちを理解してくれた

 

 

「それでですが、

 ここからお願いがあります」

 


「あ、はい。

 私にできることでしたら」

 


「私さん解雇の件ですが
 明らかに就業規則にも
 そして労働法規にも違反しています。

 

 また、奥様が店舗で不貞の事実を
 第三者に分かるよう公言したのも
 私さんに対する名誉棄損です。

 

 ただ、これを訴えられるのは
 直接被害を受けた方、
 つまり私さんだけということになります」

 


「それって、つまり…」

 

 

「はい。すでにお察しの通り
 私さんも原告になっていただきたいんです」

 


今まで自分が訴えられる側だと思っていた

 

あまりに予想外なお話で
急すぎる展開についていけない

 


私が混乱しているのを見て
父が口を開いた

 


「娘は少し戸惑っているようですが

 全てそちらの申し出に従うつもりで
 今日はこちらにお伺いしました。


 ですから、ご意向の通りにします」

 

 

父が代弁してくれた

 

お父さん、ありがとう…
 

 

「それでは、代理契約をしたいんですが
 本日は印鑑はお持ちでしょうか?」

 


助手の方が差し出した契約書に
私はすぐサインした

 


「ありがとうございます。

 これから色々とお願いすることが
 あるかと思いますので
 よろしくお願いします」

 


「こちらこそよろしくお願いします」

 

 

「何か他にご不明な点はありますか?」

 


いけない

 

一番大事なことを聞かなきゃ…

 


「あの…

 電話でもお話ししましたけど

 

 夫や息子たち、

 それにご両親に
 謝罪させていただく件ですが…」

 


「あぁそうでしたね。

 

 私さんとの離婚に関する事項について
 夫さんはこの件が終わってから
 改めて考えたいとのことでした。

 

 それでよろしいでしょうか?」

 

 

すぐに謝れないんだと思ったが
考えてくれる、と言った

あの手紙のような
「会いたくない」じゃなくなってる…

 


今の私には

それだけで十分ありがたかった

 

 


弁護士さんにお礼を告げ
私たちは弁護士事務所を後にした

 

 

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