店長に挨拶をしたら
なぜか座るように言われ私は戸惑った

私に言いたいこといっぱいあるのかな…

 

店長をも裏切ってしまった罪悪感でいたら
予想外のことを店長が語り始めた

 


「私さん…

 副店長から誘われたんでしょ?」
 

 

「あ、はい…

 でも応じたのは私ですし…」

 


「家庭がうまくいっていない、
 単身赴任も自分から希望したって?」

 


「え? 彼が話したんですか?」

 

 

「実はね…」

 

 

そう言って店長が語り出した内容に唖然

 

 


彼は常習犯だった

 

 


いつも部下に手を出して問題を起こす
その手口はいつも同じ

そしてバレるのもいつも同じで

奥様が彼を疑って探偵をつけて御用

 

今回も

休みに帰ってこない彼を不審に思い
探偵に依頼したそうだ

 


ただ

奥様の方にも問題があるようで

 

 

バレるたびに奥様は
浮気相手が許せないという気持ちで

 

相手のダンナ様に教えるだけじゃなく
彼が勤務する店に乗り込み

 

「店長を出せ!あの女を出せ!」

 

と大声で喚き散らす…

 

 

 

そうか

 

だから今回も奥様から
私の夫に連絡がされたんだろうな…

 

 

あ、

だからさっきのみんなの反応か…

 

 


素朴な疑問がわいたので聞いてみた

 

「なんで彼はクビにならないんですか?」

すると店長は苦々しそうに答えてくれた

 

 

彼は社長の遠縁の親戚で

 

男の子に恵まれなかった社長は
ゆくゆくは後を継がせたいと考えている

その上
彼の奥様は社長の1人娘

だからあの夫婦に誰も逆らえない、と

 

 


なんか…

 

驚くよりあきれた

 


と同時に腹が立ってきた

 

こんな男に私は騙されたのか…

 

 

 

「私さんなら大丈夫かと思って
 彼と一緒にしたんだけど…

 

 さっきは本社の人の手前、
 ああいう言い方しかできなかったけど

 

 結果的に私さんも

 被害者みたいなもんだね…」

 


そう店長がつぶやいてハッとした

 

やっぱり私は
店長の期待を
私への信頼を裏切ったんだ…

 


「先ほども申し上げましたが
 私が応じなければ良かっただけのことです

 

 ご期待に沿えず申し訳ございませんでした」

 

 

「うん…

 そうなんだけどね…
 私さんのところは大丈夫なのかな?」


「いえ…

 離婚になると思います…」


「やっぱりそうか…
 なんか申し訳なかったね…」

 


「店長の責任はありません。
 全て応じてしまった私の責任です。

 

 最後までご心労をお掛けし
 誠に申し訳ございませんでした。

 

 それではこれで失礼します。

 

 今まで本当にありがとうございました」

 

 

接客やってるから
謝罪の言葉がスラスラ出てくる

 

一種の職業病だな、これ…

 


私は店長に深く一礼をして店を出た

 

 

 

 


彼の正体を知って
 

やっぱり騙されてたんだなって

 

納得する自分がいた

 


だけど
 

応じてしまったのは私

 


不倫は1人じゃできない

 


私も共犯者なのは間違いないんだ…

 

 

 

 

 

家に戻り
残されていた私の荷物を車に積み込む

 


これで家の中は

 

本当に

空っぽになってしまった

 


優しい夫と素直な息子たち

 

笑いの絶えなかった
あの暖かい家庭は…

 


もう二度と戻ってこない

 

 

 

 

 

私が壊してしまったんだ…

 

 

 

 

 

 

激しい自己嫌悪

 

押し寄せる後悔

 


玄関の鍵を閉めたら
昨日あんなに泣いたのに

 

また涙が出てきた

 


「涙が枯れるってウソだな…」

 


そんなことを考えながら
私は久々の実家へ向かった

 

 

【BACK NUMBER】
遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心

初めての挫折 優しさの罠