「え?刑事罰って…」


「逮捕される、ということです」


「そんな、逮捕ってそんなこと!
 そんなことある訳ないじゃないの!」


「貴方のされたことはそういうことです

 

 他の浮気相手との交渉で
 先方からも慰謝料請求されることを
 知っていた貴方は、なんとか慰謝料の
 支払いを回避できないかと考えた

 

 だから貴方は
 弁護士に依頼しなかったんですよね?」


「知らないわよそんなこと!
 全部あなたの想像の話じゃないの!」


「別にお認めにならなくても結構ですよ。
 私は貴方を訴えるだけですので」


「え?本当に裁判するつもりなんですか?」

 


「最初から申し上げてるじゃないですか」

 

 

「裁判って…」


「それだけじゃありませんよ」


「え?」


「養育費の件です」


「え?養育費?なんのことですか?」


「貴方、私の娘が彼の子だと
 知ってましたよね?」

 

 

「あ…」


「どうやらお分かりのようですね。
 

 娘の養育義務があるのは
 本来は彼なんです。
 

 ですから娘の出産から現在までの
 養育費を請求します」


「そ、それっていくらぐらいなんですか」


「低く見積もっても1千万円以上でしょうね
 なにせ娘はもう高校生ですから」

 

 

「い、1千万円!?無理です」


「奥様、私は低く見積もってもと
 申し上げました。
 彼さんの収入状況からすると
 もっと高くなるでしょうね」


「そんな…」

 


「ですから私は
 彼さんに慰謝料と養育費を
 貴方は強要罪で告訴します」

 

 

「仰ってることは分かりますが
 いくらなんでもそれは…」


「えぇ、ですからお認めにならなくても
 結構だと先ほど申し上げました」


「それってつまり…」


「あなた方ご夫婦を民事と刑事で訴えます。
 早くしないと時効になっちゃいますので。
 

 私はそのつもりだと
 最初に申し上げましたよね」

 

 

「そ、そんな…」

 


「私は
 妻をオモチャにした彼さんだけじゃなく
 妻を騙した貴方も許す訳にはいきません。

 

 妻は慰謝料を工面するために
 借金をしたんです。

 

 その借金は私名義なんですよ。

 

 私の気持ち、分かりますよね?」


「…」

 

 

奥様が無言になったのを見て

「では、あとは法廷でお会いしましょう」

そう言って立ち去ろうとする夫を
奥様は慌てて引き止めた


「いや、ちょっと待ってください!」

 

 

「まだ何か?」

 

 

「も、もう少し話し合いをしませんか?」


それを聞いた瞬間
 

夫の表情が変わり声が一段と低くなった

 


「話し合い?

 …って言いましたか?

 

 貴方は妻に話し合いの余地も
 猶予も与えませんでしたよね?

 

 その上、私に対する謝罪も無い。

 

 身勝手過ぎませんか?」


「そのことは謝ります。
 本当に申し訳ありませんでした」


「まだ誤解されてるようですね」
 

 

「え?」

 


「口先の謝罪なんていらないんですよ」

 

 

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