夫は私の方を見ようともせず

 

無言で寝室を出て行った

 


その横顔は

怒りとも悲しさともとれるような

 

私が今まで見たことのない夫の表情

 


当然だけど
私は声をかけることもできず

 

そのまま固まっていた

 

 

夫が寝室を出ていく姿を見ながら

 

「やってしまった…」

 

という思いが頭を駆け巡ったけど

 


だからといって
夫に謝ることもできない

 


謝れば「なぜ?」に答えなくちゃいけない

 

本当のことなんて答えられるはずがない

 


…いや

 

どんな言葉でも同じだって気付いた

 

 

 

 

理由はどうあれ

私は夫を完全に拒絶したのだから

 

 

 

 

不思議な感情が芽生えてきた

もう愛していないはずの夫に対し
申し訳ない気持ちでいっぱいになった

 

私はこの時初めて
自分のしている事の重大さに気付いたから

 


「私は夫を裏切り続けているんだ…」

 


夫が浮気してると本気で思い込んでた私

今までそれを理由に
彼との関係を自分の中で正当化していた

 

 

だけど気付いてしまった

 


「そもそも夫の浮気って
 夫の帰りが遅いってだけの理由で
 私が言ってるだけだ…」

 


いつの間にか彼に依存して
夫を愛する気持ちなんて無くなってしまった

だけどそれは

 

夫が帰ってこない寂しさを
夫のせいにしたかっただけ

 


その結果として今の私は

 

夫を拒絶するしか方法が無くなってしまった

 

 

夫は拒絶の理由を知りたがるだろう

 

「なぜ?」に答えなくちゃいけない

 

だけど真実を言えるはずがない

 

不倫してるなんてバレたら終わりだ

 


私は夫の「妻」なんだ…

 


私は自分が不倫している事実と
その「リスク」を実感した

バレたら全て終わり

 

だけどもう時は戻せない

 

今更どうすることもできない

夫に対して言い訳することすらできない

 

 

 

夫は寝室に戻ってくることはなかった

「どうしよう…」

 

眠れるはずも無く考え続けた

 


だけど考えすぎたせいか
ここで私の「メンヘラ」発動

 


「そもそも夫が悪いのに
 なんで私が悩まなきゃいけないの」

「そもそも夫が浮気するからだろう」

 

さっき気付いた自分の思い込み

 

そして夫に対する申し訳なさ

 


そんなものは

 

メンヘラ発動の瞬間に消え失せた

 


残ったのは

 

「なんで浮気してるくせに私を求めるんだ」

 

「浮気してる夫に私が応じるわけないだろ」

 

という夫に対する嫌悪感だけだった

 


この時の私は

 

「もうどうしようもない」という
追い込まれた状況で

 

無意識に自分を擁護することしかできなかった

 

 

 

夫を裏切っていることの反省より

 

夫を責める方へ舵を切り

一瞬気付いた自分の思い込みを

 

さらに上書きして
夫の浮気は真実だと思い込み続けた

 


自覚してなお
私は自分の正当化を続けた

 


もう引くに引けなくなっていた

 

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