それにしても不思議だったのは
どうして奥様が会社に乗り込んだのか

 もし上司のスマホ見たんなら
 私のスマホに連絡が来るんじゃないの?

 なんで私じゃなく会社に?


会社から駅に向かい
そんなことを考えながら歩いてたら

私のスマホが鳴った


弁護士さんからだった

 

 

「私さんですか?夫さんの弁護士です」

話すのはこれが初めてだった

「あ、はじめまして」

「書類を送っていただき
 ありがとうございました。
 ただ申し訳ないんですが、
 記入漏れの箇所がありまして
 事務所まで来ていただきたいんですが…」

「そうでしたかスミマセン。
 今ちょうど会社に来てたので
 これから向かいます」

 

 

弁護士さんの事務所は
私の会社の近くだった

何かあるといけないから
本当は持参したかったけど


会社の人に見られたら、
と考え郵送にした


 最初っから持参すればよかったな…


10分ほど歩いて
事務所のあるビルに着いた

弁護士事務所なんて初めてだから
けっこう緊張した

 

 

受付で名乗ると面談室に案内され
すぐに弁護士さんがやってきた

「スミマセンご足労いただいて」

想像してたのと違って
なんだか普通のおじさんだった

「いいえこちらこそ。
 ご迷惑をお掛けしスミマセン」

挨拶もそこそこに
記入漏れの場所に書き込んで
用件はすぐ終わった

 

「ありがとうございました。
 書類が受理されたら
 改めてご連絡します」

「お手数をお掛けします」

「せっかくお越しいただいたんですから
 何かご質問があればと思いますが
 いかがでしょうか?」


ありがたい申し出

この際だから色々聞いてみよう

 

 

「ありがとうございます。
 では… 夫のことなんですが…
 今、夫はどこにいるんでしょうか」

「えっと… それはちょっと…」

「あ、スミマセン。
 実は夫の同期の方に内緒で
 転勤で○○市にいると聞いてましたので」

「なるほど。では
 ご存じだったんですね、ということで」

「ありがとうございます。

 夫は家具とかはどうしてるんでしょうか。
 家のものは自由にとなってますが
 夫が必要なものは残したいと思って」

「それでしたら条件決めの際に
 ”足りないものは改めて買う”
 とおっしゃっていましたので、
 あなたのご判断で大丈夫と思います」

「分かりました。それと、
 そんなに交流は無かったんですが
 義両親へのあいさつとかは…」

「そこは夫さんは
 接触禁止に含まれるご認識ですね」

 

「そうですか、分かりました。
 その接触禁止なんですが…」

「はい」


「夫に謝罪したいと思うんですが
 それも無理なんでしょうか」


「そうですね…」

「弁護士さん同席でも構いませんので
 できれば、と思いまして…」

 

 

弁護士さんはしばらく考え込んで

「分かりました。
 夫さんにご要望を伝えますので
 結果について改めてお知らせします」

「よろしくお願いします」


 ダメ元で言ってみたけど
 また会えるかもしれない…


 受け入れてくれるといいな…

 

 

【BACK NUMBER】
遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心

初めての挫折 優しさの罠