2023年5月

2025年7月改訂

 

自律型海中ロボット研究開発40年

東京大学名誉教授 浦 環

 

 

第四章 2010年以降のAUVの開発

 

4.1. 実用的なAUVの開発

 

 IISは、2機のAqua-Explorer 2000をKDDIケーブルシップ株式会社(KCS)からもらい受け、1機にはインターフェロメトリーソナー、もう1機にはIISが開発した高高度ビデオ画像計測システムを搭載しました。こうして、熱水噴出孔周辺調査などの深海底調査に適したAE2000aとAE2000fに生まれ変わりました。2017年、ブレア・ソーントン教授のひきいるIISチームは、AE2000aとAE2000f(図4.1.1)、TUNA-SANDおよびTUNA-SAND 2の4機をたずさえSchumit Ocean Institute [e] が主催する調査研究航海に参加し(4.3節参照)、面積12haの海底の詳細な3次元画像計測に成功しました。AE2000aは2012年にオホーツク紋別沖の流氷の下に潜っています。

 

図4.1.1 2015年伊平屋北熱水フィールドで調査を終了して浮上してきたAE2000f

 

 JAMSTECは、2012年に「じんべえ」[16](図4.1.2)、「ゆめいるか」、「おとひめ」の3機のAUVを製作したと発表しました。最初の2機は航行型AUVで、最後の1機はホバリングAUVです。「じんべえ」は、ソフトウェアのデバッグを経て、2015年から一般利用に供されています。

図4.1.2 JAMSTECの「じんべい」(L=4m、W=1,700kg)。

 

 株式会社IHIは、航行型AUVと無人船(ASV:Autonomous Surface Vehicle)で構成されるシステムを防衛省向けに開発し、2014年に鹿児島湾内でASVがAUVを追尾する実証実験に成功しました。この成果を踏まえ、IHIはAUVの研究開発に力を入れています。その結果、海上保安庁に航行型AUVを2台納入し、2020年から就航する測量船「平洋」に搭載されることになりました。

 

 IISは、コバルトリッチクラストの厚さを現場で測定する音響装置を文部科学省「基盤ツール開発プログラム」において開発し、専用のホバリングAUV「BOSS-A(図4.1.3)」を2014年に建造しました。「BOSS-A」は、拓洋第5海山などの有望なコバルトリッチクラスト地帯に展開されています。また、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC、現エネルギー・金属鉱物資源機構)と共同で、BOSS-A、AE2000f、ROVなどを用いた大規模調査を南鳥島周辺海域で継続して行い、資源量の推定に役立つデータを取得しています[17]。

図4.1.3 BOSS-A(L=3m、W=600kg)は、コバルトリッチクラスト地帯の調査用に設計建造されました。

 

 

図4.1.4 「BOSS-A」が撮影したコバルトリッチクラストの表面

 

 

図4.1.5 「BOSS-A」が非接触で計測したコバルトリッチクラストの厚さ。上段は表面の写真、中断は計測したデータで表面の凸凹の下にクラストと基盤岩との間での反射面が見え、下段は海底を平らに表現してクラストの厚さを分かりやすくしたもの。

 

4.2. 複数AUV展開

 

 日本列島近海は、台風や季節的な強風の影響で、海況が非常に厳しいことが多い環境です。すなわち乗船して現場に行ったとしても、調査できるチャンスは限られています。図4.2.1はIISが行った3つのAUV調査の潜航の様子です。稼働率が悪いことが見てとれます。そこで 複数のAUVを同時に運用することで、貴重で高価なシップタイムを有効活用し、チャンスを生かすことが求められています。

 

図4.2.1 調査航海においてAUVを投入できた割合。回航と待機の日数がいかに多いかが分かる。

 

IISは、2012年に伊豆・小笠原諸島のスミス海底カルデラにAE2000a、AE2000f、およびTUNA-SANDの3台のAUVを同時に潜航させ、カルデラ底を調査しました(図4.2.2、4.2.3)。このAUV展開は、日本初の複数AUV展開です。その後、IISは、2〜3機のホバリングAUVを使った底生魚の観察(図4.2.4)や、航行型AUV、ホバリングAUV、ROVを使った熱水地帯やコバルトリッチクラスト地帯を調査しています。

図4.2.2 3台のAUV(AE2000a、AE2000f、TUNA-SAND)がスミスカルデラで同時潜航に成功しました。

 

図4.2.3 海底面直上をならんで航行するAE2000aとf。SSBLデータ。田印で表されるAEは、先に海底に降りて、グルグル回って次のリボン印のAEが降りてくるのを待っている。二台がそろったら、並んで南にさがっていく。

 

図4.2.4 Tuna-Sand、Hobalin(L=1.2m、W=270kg)、TUNA-SAND 2(L=1.4m、W380kg)の3台のTUNA-SANDクラスAUVがオホーツク海で底生動物を調査しました。

 

 上記の場合、複数のAUVはそれぞれが独立して、自律的に動いています。次の段階としてAUV達が協調してミッションを行うことが考えられます。2010年代初頭より、IISの巻准教授は、TD1と、その改良型のAUV「Tri-TON」と「Tri-TON 2」[18](図4.2.5)を使って3台のAUVの協調行動に関する研究を行っています。

 

図4.2.5 ホバリングAUV「Tri-TON 2」(L=1.4m、W=300kg)。

 

 

 JAMSTEC、IIS、九州工業大学、三井造船などで組織された「チーム黒潮」は、4,000m級のAUV2機(AUV-NEXT、AE-Z)、ASV1機(ORCA)を建造し、2015年から始まったShell Ocean Discovery「XPRIZE」に参戦しまた。残念ながら1位を逃しましたが、2位を獲得しました[g]。1位を獲得したチームは市販のAUVを使用したのに対し、「チーム黒潮」は自前のAUVで出場したことは強調されるべきでしょう。また、Round 1では、IISのAE2000aとAE2000fが主役でした。Round2では、残念ながら複数のAUVの展開は成功しなかったものの、AUV-NEXTは23時間の潜水調査を行い、135海里を航行しました。

 

4.3. ホバリングAUVをより高度なものに改良する

 

 IISでは、TSを改良し、船底に取り付けたハンドで海底の物体を採取できる「TUNA-SAND 2」[20](TS2、図4.2.4)を開発しました。海底の特定の物体に対して完全に自律的なサンプリングを実行することは非常に困難なことです。なぜなら、AUVはどの自然物体を取得するかを独自に決定しなければならないからです。判断を間違えれば、意味のないものを取ろうとしてしまうかもしれません。これに対しては、2つの解決策があります。第一の方法は、まず調査海域全体のモザイク写真を取得し、オペレータがその中にAUVが取得すべき物体を選択し、その座標と画像をAUVに提供します。次に、AUVは選択された地点まで正確に潜航し、画像認識によって対象を探索し、指示されたものをサンプリングします。第2の方法は、AUVがビデオ内にオペレーターが興味を持ちそうなものをリアルタイムで選択し、音響リンクを通じて支援船のオペレーターに画像を送信し、オペレーターにそれをサンプリングをすべきかどうかを聞きます。オペレーターがAUVの提案を受け入れれば、AUVに指令を送り、AUVは対象物をサンプリングします。TS2は第2の方式を採用し、現在も海上試験を繰り返しながら能力を高めてます。

 

 4.2節で述べたように、SIPの複数AUVチームの一員であるホバリングAUV「Hobalin」は、TSをベースにSIP-1の中で2015年に半年という短期間で建造され、運用中です。2019年には、いであ株式会社[h]がTUNA-SAND級AUVを導入し、「YOUZAN(図4.3.1)」と名付け、環境調査に使用しています。2022年には福井県と協同して、若狭湾のズワイガニ調査に成功しています。

 

 

図4.3.1 いであ(株)のホバリング型AUV「Youzan」。Tuna-Sand Class 4号機と呼ばれている。

 

このように、TB1の開発から約30年、日本ではホバリングAUVの開発と運用に成果を揚げ、世界をリードしていると言ってよいでしょう。ホバリング機能を生かしてさまざまな機能を持たせることができるため、高度なホバリングAUVのさらなる研究開発が必要です。

 

4.4. 国家プロジェクト

 

 2014年度から始まった国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)[f]では、複数のAUVの同時運用を大きな技術目標の1つとしました。海上技術安全研究所は 4台の航行型AUVと「ホバリン」[19](図4.2.4)と名付けられた1台のホバリングAUVが新たに建造しました。それらをサポートするために半潜水型ASVも開発されました。こうして、海底鉱物探査のための複数AUV運用インフラ(AUVチーム)が2017年までに組織され、海底調査に利用されるようになりました。2018年度から始まった第2期のSIP-2では、複数のAUVを一つの群として行動を制御する方針を開発し、5機のAUVの展開試験に成功しています。

 

 SIP-2では、6000m深度の海底の泥の中にあるレアアースを調査、開発するプログラムがありました。コアラでサンプリングするだけでは、分布が分からないので、AUVに搭載されたサブボトムプロファイラで広域調査をすることが計画されました。新たな実用AUVの開発が期待されたのですが、残念なことに米国製のREMUS6000を2台購入してしまい、MadeInJapanの6000m級AUVは実現しませんでした。

 REMUS6000は実績のあるAUVです。しかし、同様の仕様を満たす新たなAUVを日本の技術で短期間に作れないことはありません。次に記述する「チーム黒潮」は独自に4000m級AUVを建造していますし、日本には「しんかい6500」の技術があり、6000m級AUVを短期間で開発することは可能だったのです。しかし、SIP-2は、直ぐに使えるAUVが必要、という理由で海外製を購入したのです。実績のあるAUVでも、注文生産品であり、追加機能を加えたりすると、納入されても直ぐには動かないし、そのバグ取りに海外から技術者を呼んでこなければなりません。筆者は、「海外製品を買ってきても短期間で動く物はできない」とSIP-2首脳部に忠告したのですが、聞き入れられませんでした。案の定、SIP-2の期間中に、輸入したAUVは調査実績を示すことができませんでした。

 海外から買ってくればよい、という風潮は、新しい技術開発が必要な水中機器においてできるだけさけなければなりません。なぜ国は海外発注に走るかというと、うまく動かなければ、海外のメーカーに責任をなすりつければよく、発注者側の責任を回避しようとするからです。自社開発だとそういうわけにはいきません。自社開発をやめて海外発注をする傾向が、国の関係機関に多いことは、技術者としてとても残念です。そのため、日本の水中技術は、世界から一周も二周も遅れてしまうのです。