披露宴は無事に終わり、招待客が三々五々引き上げて行った。  外は冷たい雨
が降ってきたようだ。洋介はそんな雨を眺めながら、ずっと放心したように窓際に立
っている。 「もうすぐ冬がやって来るのかなあ。さあアメリカに帰って、また一人
暮らしに戻ろうか」  そんなことをボソボソと呟いた時に、背後から肩をポンと叩
かれた。 「ヨッ、洋介、今日はありがとう」  啓太が声を掛けてきてくれたの
だ。 「いや、こちらこそ、呼んでもらって嬉しかったよ」  洋介は懐かしさを滲ま
せながら答えた。 「なあ洋介、娘の優香も伴侶を見付けた、そして今日巣立ってし
まった。だから、もう何もかも……、いいことにしないか?」  突然啓太がそんなこ
とを言い出した。 「啓太、俺は……、まことに申し訳なかった。お前にも優香にも、
まだ何も償えていない」  洋介は深々と頭を下げた。 「確かにな、可奈子とは今日
までいろいろ揉めたよ。だけど、お前が優香を我々に託してくれたからこそ、ここま
で来れたんだよ」  啓太はいろいろな出来事を振り返っているようだ。 「だけど俺
は、すべてからずっと逃げてきたことになる」  そんな沈み込んだことを吐く洋
介。それに啓太が心を響かせてくれる。 「洋介、お前は何も行動を起こさずに、
我々の前から消えてしまった。それは男にとって、一番辛い選択だったのかも知れな
いなあ」   洋介はそんな啓太の言葉を噛み締め、胸が熱くなる。  洋介と啓
太、二人が男の会話をするのは久し振りだった。堰を切ったようにそれは続いてい
く。 「洋介なあ、憶えているか、いつぞや二人で居酒屋で飲んだだろう。その時
俺、可奈子と結婚すると明かしただろう」   啓太が突然昔のことを蘇らせる。も
ちろん洋介はしっかりと憶えている。  洋介は可奈子をデートに誘い、プロポーズ
をする予定だった。しかし親友の啓太が、その前に可奈子と結婚すると言った。それ
を聞いて洋介は、親友・啓太のことを思い、可奈子から身を引いてしまった。 「あ
あ、憶えてるよ」  洋介はさらりと答えた。すると啓太が突然に頭を下げる。 「実
はあれ……、嘘だったんだよ」 「嘘って、どういうことなんだよ?」と、洋介は啓太
の顔をのぞき込む。 「あれは、洋介を可奈子から遠ざけるための嘘だったんだよ」
「それで?」と、洋介はよく理解できない。 「その後、洋介は可奈子に声も掛けな
くなった。それで俺は、落ち込んだ可奈子を一所懸命面倒みて……、お前から可奈子を
奪ったんだよ」  後は「すまなかった」と、啓太が深々と頭を下げる。そして頭を
上げ、さらに「俺、知ってたんだよ、お前が可奈子のことが好きだったこと。だから
すべてのことは、俺のあの時の嘘から始まったんだよ」と。