洋介にとって、優香を抱き上げた時から、可奈子とのあの夜の出来事は確実に過
ちから罪になったのだ。  そして洋介は母親・可奈子の三つの望みを聞き入れた。
しかしそれは結果として、娘を捨ててしまったことになった。  親友・啓太への裏
切り。そしてその後、我が子・優香を放棄。それらの罪に対しての償いは、未だでき
ていない。  洋介は行くべきかどうか迷った。しかし、成長した優香を一目だけで
も。とにかく一目だけでも良いから……、遠くからでも会ってみたい。  そして、も
しできるならば、一言だけで良い。優香に「おめでとう」と声を掛け、祝ってやりた
い。  思案の末に、洋介は決心する。とにかく行ってみようと。  秋も深まる時
節、新郎・健一と新婦・優香の挙式は執り行われた。そして今、その披露宴が開催さ
れようとしている。  洋介は、新婦の父親の友人と言う立場で出席させてもらっ
た。一番端の目立たない席に座らせてもらっている。  新郎新婦入場のアナウンス
とともに、優香が会場に入ってきた。優香が純白のウェディング・ドレスに身を包ん
でいる。  美しい。  洋介はその感動でもう言葉がない。  しかし、ハッとす
る。誰も気付くはずはないが、どことはなく洋介自身の面影を持っている。  その
時点から、洋介は泣けて泣けて涙が止まらない。優香は、可奈子との愛の過ちで出来
た子。しかし、娘は娘。  父として、優香に何一つしてやれなかった。  自責の念
と、優香が幸せになって欲しいと願う気持ちが入り乱れる。そんな複雑な涙が止まら
ない。  キャンドル・サービスで、優香が洋介のテーブルにやってきた。その時
に、洋介は「幸せに」と小声ながら囁いてみた。それを優香は受け止めたのか、「は
い」と頷いてくれた。洋介はとにかく嬉しかった。  優香のために、これから何を
してやれば良いのだろうか?  一所懸命考えてみる。しかし、今日も……いつもと同
じ答えになる。  優香が幸せに生きて行くためには、その邪魔をしないこと。それ
が一番だと、辛いが、あらためてそう思うのだった。