「ああ、好きだったよ。今も、これからも……、ずっと好きだよ」   洋介は親友
の妻に、ついに本心を明かしてしまった。 「そうなの、嬉しいわ。いつか一緒に暮
らしたいわ」   可奈子の熱い涙が洋介の胸を濡らす。  しかし洋介は、このまま
ここに泊まることはできない。可奈子を残し、その過ちから走り逃げるかのように夜
の町へと飛び出した。  いくつものぼんやりとした街灯が点々と青く灯っている。
 そんな青さに溶け込むように、洋介は今、男の涙をポロポロと落しながら歩いてい
る。冷えた夜風が洋介の肩に重くのし掛かるように吹ききて、そして去って行く。
 洋介と可奈子、二人が犯してしまった過ち。辛くも悲しい橋を、二人は渡ってしま
った。 「今も、これからも、ずっと好きだよ」  洋介は本心を親友の妻・可奈子に
伝えてしまった。そして可奈子は洋介の胸の中で涙ながらに答えた。「いつか一緒に
暮らしたいわ」と。  可奈子とのそんな出来事を胸にしまい込み、洋介は駐在員と
して米国へ赴任した。そして歳月は流れ、多忙の中で三年が過ぎ去ってしまった。
 秋風がもう吹き始める。そんな頃に、洋介は出張で日本に戻ってきた。  今回は
いつものトンボ返りではない。骨休みにと少し休暇も取った。  久し振りの日本。
洋介は美味しいものを食べ、ゆったりと過ごしていた。  そんな日の午後、突然可
奈子から電話が掛かってきたのだ。洋介は驚きと懐かしさで、可奈子の声を聞い
た。  あの壮行会の後の可奈子との出来事。あれは魔が差しただけ。そんな過ちの
記憶は、三年の時間の流れの中で徐々に薄れて行っていた。  あれ以来、洋介はも
う可奈子とは会わないでおこうと誓っていた。しかし可奈子はぜひ会って欲しいと訴
える。洋介は休暇でもあり、正直時間は取れる。 「どうしてもと仰られるならば、
お逢いしましょう」  洋介は折れた。