自転車は押すものではない。

当然のことなんだけど、
こうして自転車を押して歩いているといやでも再確認させられる事実だ。

左右に振り分けて自転車に掛けてある大きなバッグには、
テントや寝袋などのキャンプ用具、
その他の生活雑貨が入っていた。
自転車は大体十三キロ、
荷物は二十キロ、
よって総重量は三十三キロ。
自転車はパンクしたのでうまくタイヤが回らず、
それらの重さをひしひしと実感した。

なんでこんな日に限って雲が一つもないのだろう。
容赦なく照りつける太陽に、
汗は全身の穴という穴から噴出していた。

アスファルトは熱すぎてもう座れない。
なんとか遮蔽物のある場所まで行かなければ。

二十分ほど歩くと、
遠くにあぜ道の終わりが見えてきた。
どうやら道は、里山を越えて行くらしい。
里山には木が生えているだろうから、
峠で一休みできそうだ。

ゴールが見えなかった時は心が折れそうだったが、
ゴールが見えた瞬間、僕は声にも似た大きな溜息を吐いた。
とにかくあそこまで行こう。
とにかくあそこまで行けばいいのだ。

里山のふもとまで着くと、
さっきまであんなに噴出していた汗が止まった。
これはマズイ。
脱水症の初期症状だ。

しかしどこも斜面が急で、
日陰で休めそうな場所は見当たらない。
僕は最後の力を振り絞るように峠を登り始めた。

自転車は押すものじゃない。

分かってる。
分かってるよ。
分かってるけど仕方ないんだ。
ここを乗り越えたら休めるから。
だから今は我慢するんだ。

自分に言い聞かせて坂道を登る。
自転車はますます重くなり、足が止まる。
息を整えないと登れなくなってきたのだ。

だんだん頭がぼーっとしてきた。
息もなかなか整わない。
暑い。
重い。
苦しい。

自転車なんて捨ててしまいたい。
なんでこんなことを始めてしまったのだろう。
もうイヤだ。

誰にも褒められず、
どの記録にも残らず、
ただ一人もくもくと自転車を漕ぐ日々に、
何も見出せず、
どんな意味も付与できず、
ただひたすらに時間を浪費するだけで、
何も残せず、
何も作り出さず、
ただ毎日毎日同じことを繰り返す。
これではまるで、死ぬまでの時間潰しではないか。

僕は立ち止まった。
先に、カーブが見える。
今までのゆるやかなカーブよりも、だいぶ急なカーブだった。
良く見ると、
カーブの外側に休憩できそうなスペースがあった。
幸い、スペースの周りは杉の木が生えており、
その枝葉は屋根のようにスペースを覆っている。

日陰だ。
あれは間違いなく、日陰だ。

これでやっと休める。
もうすぐだ。
あそこまで、あそこまで頑張ろう。
腹の底から湧き出す
喜びに掛け出したい気持だったが、
体はとても走れる状態ではない。
僕は喜びをかみしめながら、ゆっくりとスペースに近づいていった。




<続く>

十年勤めた会社に長期休暇を申請し、僕は自転車で旅に出た。

旅は大学生の頃からの夢だった。
しかしなかなか時間が作れず、
夢のまま終わらせるしかないと思っていた。

今、旅に出るきっかけとなったのは、
五年間同棲していた彼女が突然家を出て行ったことだった。

僕たちは運命的な出会いだったわけじゃないし、
情熱的に愛し合ったわけでもなく、
ましてや美男美女でもない。

ありふれた出会いに、マンネリ化したデート。

だけどそれでも幸せだった。
と、思っていたのはどうやら僕だけだったらしい。

結果、
彼女は出て行き、僕は取り残された。

僕は怖かったのだ。
家にいると、彼女がいつか帰ってくるんじゃないかと期待してしまいそうで。
彼女はもう戻ってこない。
それを理解できるまで僕は家に帰らない。
いや、帰れない。


八月十日。
旅に出て二十一日目。
時刻は午前七時三十五分。
現在地、とある田んぼのあぜ道。


田んぼのあぜ道は遮蔽物がないので、
太陽を一身に受けるしかない。
すでに容赦なく照りつける太陽は刺すように痛く、
これなら正午には、僕は丸焼けになって死んでいるかもしれないな。
すでに真っ黒になった腕をさらし、
そんなことを考えながら自転車をこぎ続けた。


田んぼのぐるりを里山に囲まれ、いくら自転車を漕いでも景色が変わらない。
暑さも手伝って、僕は頭がぼーっとしてた。

突然、この静かな田園風景を裂くような破裂音がけたたましく鳴った。
と思ったら、僕の自転車は操作不能になった。

パンクだ。

瞬時にそう思った僕は、反射的にブレーキを力強く握った。

大きくバランスを崩しながらも、なんとか転倒せずに踏みとどまった。
降りてから自転車スタンドを立て、
タイヤを見てみた。

最悪だ。
後輪の空気が完全に抜けている。

空気が抜けているし、さっきの破裂音から考えても、
バーストしたのだろう。
もうパンク修理のパッチだけではどうにもならないとなれば、
完全に後輪を外して修理しなくてはならない。


ドロップハンドルのこの自転車は24段変速だ。
後輪にはリヤディレイラーやら、チェーンやらがごてごてと付いている。
それらをはずすのだけでも時間がかかってしまう。

かがんでいると、上からの日差しとアスファルトの照り返しで、
頭がクラクラしてきた。
こんなところにじっとしていたら本当に丸焼きになってしまう。
とにかく自転車を押し、
どこか遮蔽物のあるところまで移動しなくては。

僕はスタンドを元に戻し、
見える範囲に遮蔽物のない田んぼのあぜ道を、
自転車を押して歩き始めた。



<続く>



もじゃ子(以下も)「どうもこんばんは!

 一ヵ月前に買った雑誌をまた買ってしまったもじゃ子が来ましたよ~」


村田(以下む)「雑誌を読んだという君の記憶はどこに?

 ところで、これから何を話しましょうかね」


も「実はですね、ワタクシ、何を話そうか既に考えて参りました」


む「ふーん」


も「もっと私に興味持って下さい! ちゃんとした話ですから!」


む「ちゃんとした話?」


も「そうです。皆さんが今、一番聞きたい! 知りたい! という話です」


む「なるほど、ちょっと興味湧いてきました。じゃ、聞かせて下さい」


も「タイトルは・・・」


む「え? タイトル!?」


も「もじゃ子の未来予想図Ⅱ」


む「知りたくない! 皆さんが今、一番知りたくない!

 そしてドリカムか?」


も「君はアスカ」


む「オレ? アスカじゃないですよ」


も「私はチャゲ」


む「チャゲアスかっ!! ドリカム関係ないし!

 ちゃんとした話は!?」


も「冗談ですよ、私、ちゃんと考えてきましたから」


む「あるならちゃんとやれ」


も「はい。タイトルは・・・」


む「またタイトル!? イヤな予感が・・・」


も「もじゃ子家、家系図」


む「デスノート、プリーズ! そして今すぐ家系を絶やせ」


も「興味ないんですか? じゃ、もじゃ子家の家計簿にしましょう」


む「破産しろ」


も「じゃあ、何ならいいんですか!?」


む「逆切れ系? もっとましな話があるでしょ?」


も「あ、ありました。

 私、いつもコメントをくれるアメブロガーさんたちに、

 お礼の手紙を書いてきたんです」


む「そうそう、そういうのカモン」


も「真剣に書きました。私、一週間寝ずに書いたんです」


む「え!? 体は大丈夫か?」


も「えぇ、大丈夫です。そのあと一ヵ月間眠り続けましたから」


む「今すぐ行け、ホスピタルへ」


も「タイトル・・・」


む「またタイトル!?」


も「アメブロガーどもへ」


む「お口のききかた忘れたか?」


も「サブタイトル・・・」


む「え?」


も「もじゃ子とゆかいな仲間たち」


む「『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』を堂々と、

 それはもう恥ずかしげもなく堂々とパクッたね」


も「私、パクッってません。ムツゴロウさんがパクッたんです」


む「何十年も前からやってるムツゴロウさんに、今すぐ土下座しろ。

 オレが上からブーツで踏んでやる」


も「私の記事にコメントをくださるアメブロガーの皆様、

 初めまして」


む「はじめてじゃないだろ。コメントくれてるんだから」


も「 カッコ笑い 」


む「なんで笑ったの!?


も「ワタクシ菅野美穂と申します」


む「いきなりウソですか?」


も「ワタクシ、皆様に内緒にしていたことがあるんです」


む「ウソの後、いきなりカミングアウト!?」


も「実は先日舞台を観劇した時、

 芸能人の方にファンレターを手渡したんですが、

 電話番号とメールアドレスを書いておいたんです」


む「大胆ですね」


も「そしたら、そしたら・・・メールが来ました!!」


む「え!? 本当?」


も「それから、実は電話もきまして、少しお話したんです!!」


む「えぇ!!!!」


も「という妄想をしました」


む「二度と妄想世界から戻ってくるな」


も「P.S」


む「もう終わり!? 追伸ですか・・・」


も「登山は、家に帰り着くまでが登山です」


む「いきなり登山の話!? まぁ、もじゃ子さん、登山好きだもんね」


も「P.S」


む「まだあるの!?」


も「そんな私は、二年ほど家に帰っていないので、

 未だ登山中です」


む「今すぐ帰って! お願いだから!!」


も「P.S」


む「追伸多いな!!」


も「早く帰りたいな、ムツゴロウ王国に」


む「ムツゴロウさんに飼われてたの!?

 アメブロガーさんたちにお礼言ってないし、もうえぇわ!」


も・む「どうも、ありがとうございましたぁー」



私が


「 ねぇ、聞いてるの? 」


と聞くと、あなたはそっとほほ笑んだ。

たくさん聞いてほしいことがあるのに、あなたはいつもそう。


久しぶりに会った私たち。


「 私、変わったかしら? 」


やっぱり、あなたはそっとほほ笑んだ。

あなたなりの優しさかしら?


幸せは不公平に訪れるのに、時間だけは誰にでも平等なんて、

ちょっと残酷ね。




私たちが出会ったのは、確か私が三歳の時だった。


七五三で訪れた神社で、

体よりも大きい着物の裾を踏んで派手に転んだ私。

そうそう、

あの時も、あなたはそっとほほ笑んでいたっけ。




あなたを見上げてみると、やっぱりあなたにも時は平等なのね。

少しシミが増えたみたいよ。


そして今も時が流れる。


腕時計に目をやると、

分針はそろそろ時間ですよと告げていた。



私が


「 また来るね 」


と言ってにっこり笑ってみせると、

やっぱり、あなたはそっとほほ笑んだ。


あぁ、変わらないその笑顔。


あなたのその笑顔が、

会えなかった私たちの時を埋めていく。


「 次は、厄払いしに来るわね 」

 


 

狛犬(こまいぬ)さん!




裏文字屋



私、今年が厄年の32歳です。



おわり




「翼」から連想する単語。
自由、空、飛翔、風、解放。
しかし今私が持っている翼は、それらのものとは遠くかけ離れていた。
「翼状針(よくじょうしん)」と呼ばれるこの翼。
別名「とんぼ針(しん)」。
主に医療の現場で、点滴をする際に使われる針だ。
真ん中に針があり、その左右に伸びたプラスチック製の羽は、
翼やとんぼを連想させるのだろう。

彼がいつも座っていた椅子に座って一人、部屋を眺めてみる。
全部捨てたはず。
全部捨てたはずなのに、あんなところにまだあったわ。
私は席を立ち、窓ガラスを開けた。
ねっとりとした空気が体に絡みつく。
雨が降るのだろうか。
夕暮れに重く垂れた雲が、今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
泣きたいの? 仲間ね。私もよ。

室外機の上に置かれた灰皿には、KOOLの吸い殻が三本入っていた。
いつもは半分くらい吸うと消していたのに、この三本はどれも根元近くまで吸われている。
これはこの部屋で吸った最後のタバコ。
彼は何を思いながら吸っていたのだろう。
このベランダで何を吸いこみ、何を吐きだしていったのだろう。

灰皿をゴミ箱に捨て、
また彼がいつも座っていた椅子に座って一人、部屋を眺めた。
いつもの部屋なのに彼の椅子から眺める景色は、少し色あせて見えた。
もう何もない。
あなたの思い出は、モウナニモナイ。


「翼」を袋から取り出した。
輪ゴムを10本腕に通し、上腕で止める。
……10秒。……20秒。
1分ほど経過すると、
上腕で止めた輪ゴムから先端にかけて、腕がピンク色に変色した。
手背の血管が怒張している。
私は下唇を一度なめ、ゆっくりと左手で翼を掴んだ。
チクッとした痛み刺激。
血管を突き破る小さな小さな感触。
「翼」の後ろにつけられている短い透明の管を、暗赤色の血液がつーっと滑っていく。
管の末端に広げられた真っ白いティッシュ。
そこへじわじわと広がる鮮血は、驚くほどに色鮮やかだった。

コレハワタシノナミダ。

なんて美しいのだろう。
汚れたモノが純粋なモノを汚す瞬間、私に漂う浮遊感。
興奮せずにはいられない。

広げたティッシュの半分ほどに鮮血が広がったのを見て、
私は「翼」を離した。
輪ゴムを外すと、地に足が着いたようだった。
静かな夜が、雨とともにやってきた。



裏文字屋



気がつくと、本を胸に置いたままベッドの上で眠っていた。
掛け時計は0時11分を指示している。
もう一度目を閉じると、瞼の裏には鮮血が止まることなく流れ出ていた。
雨の音は聞こえないけれど、
自分の心臓が脈打つ音が聞こえた気がした。

コートを羽織り、外へ出る。



裏文字屋



大気は湿り気を帯び、10月の夜だというのに妙に生温かかった。
アスファルトの匂いがゆらゆらと揺らいでいる。



裏文字屋



思えば、私と彼は微妙なバランスで成り立っていた。
私の好きな映画監督はヴェルナー・ヘルツォーク。
彼の好きな映画監督は宮崎駿。
私の好きな音楽はTHE CRANBERRIES。
彼の好きな音楽はGReeeeN。
私の好きな小説は夢野久作の「ドグラ・マグラ」
彼の好きな小説は村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」
私の好きな食べ物は牛肉の脂身。
彼の好きな食べ物はトマト。



裏文字屋



私は束縛されたいけれど束縛はしない。
彼は束縛されたくないけれど束縛する。



裏文字屋



濡れたアスファルトに滲む色とりどりのネオン。
車のテールランプが引く一筋の赤い線。
どれもこれも、私には血液を連想させた。



裏文字屋



この世の中も、きっと微妙なバランスで成り立っている。
その微妙なバランスを保つのは、きっと誰かの血液。



裏文字屋



一時間ほどあてもなくうろうろしていると、
アスファルトが乾き始めていた。
ふと右手背に貼られた小さな絆創膏を眺める。
はじっこを少し爪で引っ掻いてはがすと、小さな小さなカサブタが出来ていた。
このカサブタは、私の体に流れる血液と直結しているのだ。

あ、心臓。

まだあった。
彼との思い出がここに、マダアッタ。

私の心臓が、全身に向け熱く脈を打った。
目を閉じる。
瞼の裏にはもう、血は流れていなかった。



裏文字屋

あぁ、痩せたい。

今朝、係長に
「もうちょっと椅子を前に引いてくれないか、後ろがせまくて通りにくい。あ、お腹の肉が邪魔してそれ以上引けないのか、失敬失敬」
と言われた。

あぁ、痩せたい。

今日のランチ、お店の人に
「そのランチでしたら、ご飯を無料で大盛りにできますけどいかがなさいますか?」
と、一緒にいた女子には目もくれず私だけを見つめながら言われた。

あぁ、痩せたい。

さっき、彼に
「付き合いだしてから一年で、お前ずいぶん太ったな。詐欺だろ、それ。デブデブ詐欺だ。もうお前とは一緒にいられない。別れよう」
と言われた。

あぁ、死にたい。

そして今、友人のゆう子から電話があった。
「あんたの彼、会社の片平さんと手をつないで歩いてたわよ」
と言われた。

あぁ、殺したい。

「かたひランドへようこそ!」
とか言って、彼を家に招き寄せたんだわ。
片平め!
「かたひランド、今日は貸し切りです!」
とか言って、彼をその気にさせたんだわ。
片平め!
「かたひランド、奥まで入場してぇ~!」
とか言って、私から彼を寝取ったんだわ。
片平め!

悔しい悔しい悔しい。

片平なんて、ちっともかわいくないじゃない。
私の方が絶対かわいいのに! と言っても私が痩せていた頃の話だけど。
だいたいが片平なんてガリガリに痩せているだけで……痩せてる?

そうか、そうだったのね。
彼は片平が好きなんじゃなくて、
痩せている女が好きなんだわ!
そうと分かれば今すぐダイエットしてやる!
そして片平より痩せて、彼を取り戻してやるんだから!!

ようし、夕飯は抜きにしよう。
その方が早く痩せるもの。
早く痩せるってことは、彼が早く私の元へ帰ってくるってことだもの。

あぁ!
彼が帰ってくる!
私の元へ、彼が帰ってくる!!
そう思ったら嬉しくて嬉しくて。

そうだ!
前祝いをしよう!
彼が私の元へ帰ってくるって決まったおめでたい日だもの、楽しく祝わなきゃ!


翌日。

仕事中にお腹が鳴ったら恥ずかしいから、朝ごはんはがっつり食べてしまった。
一緒に食事していた同僚にダイエットがバレたくなかたから、お昼御飯もがっつり食べてしまった。

ようし、夕飯は抜きにしよう。

あれ?
ちょっと待って。
そうしたら、冷蔵庫にあるケーキは?
冷凍庫にあるガリガリ君は?
昨日買ったたけのこの里は?

もったいないわね。
仕方ない。ダイエットは明日からにしよう。
もったいないことしているんだっていう罪悪感を抱えながらダイエットなんてできないもの。
それに、全部家の中の食べ物を失くしてしまえば、食べたくても食べられないじゃない。
ってことは、それ、痩せるってことじゃない?
つまり、彼が私の元に戻ってくるってことよね?

うっふふ、食べなきゃ!
ダイエットするために食べなきゃ!


翌日。

今日も朝ごはんとお昼ご飯はがっつり食べてしまったわ。
でもいいの、今日こそ夕飯を抜くんだから。

「え? 係長、焼肉おごってくれるんですか?」

どうしよう、私、ダイエット中なのに……。

「あ、ちょっと待ってくださいよ! 行きます、行きますよ!」

あぁ、誘惑に負けてしまったわ。
いえ、高級肉を食べられる機会なんてそうそうないわよ。
しかもおごりよ?
それって、いくら食べてもタダってことじゃない!
そうだ!
いいこと考えた!
食べ貯めすればいいのよ。
明日の分までたくさん食べればいいのよ!


翌日。

あぁ、結局昨日は動けなくなるまで食べてしまったわ。
危うく係長に救急車呼ばれるところだった。
それに、今日の朝もお昼もがっつり食べちゃったし。
今日こそ、今日こそは初めなきゃ、ダイエット。

そうだ、ダイエット食品買いに行こう。
カロリーは無い方が良いけど、栄養は摂らなきゃね! お肌がぼろぼろになっちゃうもの。

あっ! 信じられない!
キットカットが半額!?
あぁ、嬉しい! キットカット大好きだもの!!
いっぱい買おう!
と思ったら、お一人様一点限り?
じゃ、まず一袋買って、着替えてからまた買いにこよう。
こんな安く買えるなんて、もう二度とないかもしれないもの!

結局、五袋も買ってしまったわ。
店員、三袋目あたりから私に気がついたような目つきしてたけど、買ったもん勝ちよね。

よし!
これを全部食べて、明日からのダイエット頑張ろう!
そうだわ、どうせならコーラも飲みたいわね。
最後の晩餐よ!
って、なんか毎日晩餐してる気がするんだけど。
まぁいいわ、とにかく明日からダイエットするんだから!!


翌日。

「係長、おはようございます。え? 私の事ですか!? そ、そんな。だって私、ダイエッ……いえ! なんでもないです」

ダイエットしているのに「太ったね」と言われてしまった。
いや厳密には前祝いはしたけど、最後の晩餐も済ませたけど、まだ始めてないのよね、ダイエット。

朝ごはんも昼ごはんもがっつり食べてしまったから、
今日こそ夕飯を抜こう。


「え? 合コン? いや、私は……え? 医者? 行く!絶対行く!」




おわり