山のイベントがまだ頻繁に開催されていた頃、四角友里さんと会話する機会があった。


あれこれ会話をして、東北の山を勧めてもらった。


たおやかさがいいのだと。


ずっと調べて、会津駒ヶ岳を相棒に伝えた。


行こう。


森林限界を越えると、池塘が現れる。


駒の小屋から山頂まで歩き、中門岳へと向かう。


木道と池塘が広がる風景はじわじわと染み入り、母に抱かれている幼児期へと回顧されていく。


太く、しなやかで、繊細。

けっして揺るがない愛情。


僕はもう死んでいて、天国を歩いているのだろうかと何度も思った。


この森は秋になると、どう変幻しているのだろう。

いつか歩きたいと思っていた。


未知への旅立ち。


僕らの思考回路は登山口から破壊された。



さまざまな和色の折り紙を纏った樹々は、まるでモザイク作家の仕業だ。


さわさわと小声で呼ぶ風は、おいでおいでと呼んでいる。


うん、うん。


六年前よりも下を向かずに済みそうだよ、君たちが綺麗だから。


水飲場のベンチに腰掛けていると、晩秋の訪れを告げる風が吹き、好き勝手なあみだくじをなぞって僕の膝に葉が落ちた。


疲れたか?と相棒が言う。


大丈夫、お前は?


いや疲れてないよ。



こんな紅葉をみたことないよな、トンネルだよ。


僕らは秋山に恵まれていなくて、無知だった。

樹々たちの営みをまったく知らなかった。


悪かったな。と相棒が言う。


なにが?


入笠山で登り切れと言っただろう。ずっと謝りたかったんだ。


そんな昔噺を気にしてたのか。

背中を押してくれたのだと思ってたよ。


だって山頂を決めるのは自分だろ。


病気になり落ち込んでいた頃、残雪の入笠山へ誘ってくれたのは相棒だった。


もう気にするなよ。僕らは嫌な気持ちにさせないのだから。



山は謙虚さと冒険心を学ばせてくれる。


でも過去の思考や行いや発言を謝罪してからだ。


紅葉のトンネルが寸断されて森林限界を抜ける。



あぁ、もうダメだ。

美しさに膝が震え崩れ落ちそうになる。


脳にモザイクが貼られ、夏山の記憶はごっそりと剥ぎとられてしまう。


口笛の風が歩くようにと背中を押す。

駒の小屋が待っているよ、と。



駒の小屋は檜枝岐村の施設だ。


なのでご夫婦は管理人になる。



うろ覚えだけれど、お二人は遠距離恋愛をしていてそこに小屋の管理人が募集がもちあがった。


採用の条件のひとつは夫婦であることだった。


なのでご結婚をされたエピソードがあったはず。



お二人では登山道の管理が難しくて整備のクラウドファンディングをされていたのかな。


記事を見たような。


狭く急な道を辿ると山頂が待っている。


登りきれ、登りきるんだ。

自分に言う。


そんなに時間はかからない。


登るか、と相棒に言う。



握手をする。


行こうか。


行こう。


相棒はいつも僕の背中を護ってくれている。


行こう、中門岳へ。

そうするとますます脳は破壊されるだろう。