僕は外の生活に慣れないとずっと思っている。
車中泊もなんども目が覚めてしまうし、そのまま入山して疲れているはずなのに小屋での眠りは浅い。
これからの記事は体験なのか夢なのか、この世とあの世の境目は薄いオブラートくらいしかないとしか言えない話だ。
初日 夜
真夜中に出発をした高速から、真夏の太陽が顔をあらわせた。
県を越える。
東京に住所を置く者にしては肩身が狭い。
小屋に着き、テント場の利用料を払った。
ツキノワグマが出没しているし、なにかあったらこちらへどうぞ。24時間開けていますから。
棲家を張り、やがて夜が訪れ眠りについた。
ぽきぽきと樹々の枝が折れ落ちる音が続いている。
この山域に猿はいない。
テント周りの砂利を踏む足音が聞こえた。
ざり、ざり。
一周して足音が止まった。
鹿の鳴き声が聞こえた。
けーんけーんと鳴きながら激しく移動していく。
足音が遠ざかっていく。
翌朝、大量に落ちているはずの枝葉は見当たらなかった。
二日目、夜
相棒が息苦しそうな寝息を立てている。
いつもそうだ。
テントの外で声が交わされている。
なにを話しているのかわからない。
ベンチレーターから外を覗くと真っ黒な影のような人物が数人いてなにかしている。
二人組の登山者がそれぞれテントを設営していたはずなのに、居なくなっている。
腕時計を見るが針がぐるぐると回り画面が真っ暗になっていく。
相棒が目を覚ましてトイレに行くと言う。
テントを出るとベンチレーターから見えた人影が蠢いている。
人がいる。
え?と相棒が周りを見渡す。
頭をふると人物は消えた。
枝が作った幻影か。
いや、風は吹いていない。
また浅い眠りにつくと相棒が震えはじめた。
金縛だ。
相棒を強く揺らし目覚めさせた。
隣のテントから悲鳴が響いた。
翌朝になっても登山者もテントも見かけることはなかった。