目黒区と品川区の境目に、桜の公園がある。
フェンスを越えて国道を包む枝はほんのおこぼれに過ぎなくて、園内はどこもソメイヨシノ色に染まる。

その癖に見物客は少なくて、花びら舞う池にはボートが数艇浮かぶだけ。静けさは守り人に作られているような気さえしてくる。

僕は蕾と五分咲き、八分咲きが揃った枝を写真に撮った。

茨城県では蕾すら付いていないだろう。そう思って転勤先の彼女に写真を送った。

何日か過ぎても返事はなかった。

着信音を受けると、彼女との共通の友人だった。

この前さぁ、◯◯が東京に帰って来てたんだけど会った?

いつ?

桜の写真を送った日だった。僕が黙ってしまうと電話の向こうの子も気配を察したのか息を潜めてしまった。

あ、ごめん。俺が忙しくてさ。
 
的を得ないセリフだったけど、これで少なくても傷を付けずに済ませたと思った。

彼女からメールが届いたのはそれから更に数日が経過してからだった。

ごめんなさい

僕は息を漏らしてから返事をいれた。

気にすることないさ

それから彼女の連絡先すべてを消した。
他になにか言えることがあったり、できることがあったろうか。

桜は開花から一週間後には散ってしまう。あながち間違いじゃなかった。

風がびゅっと吹くと、花びらは散り散りに舞っていく。その摂理さえプログラムされているとすれば、僕はあまりに非力だ。

陽が沈むと風は大荒れになり窓枠を強く震わせるようになった。

僕は窓を開けて、花びらで空洞を埋め尽くそうとした。