夕食のカレーライスを食べ終わると、すぐに談話室に座った。掘りごたつが真ん中に置かれていて足を入れると、とても暖かだった。
相棒が湧き水に冷やされた缶ビールを買ってきてくれて、プルタブを引くと今日の苦労を炭酸が吹き飛ばした。
燃料は何だろうと掛け布団をめくると、燃えカスみたいなものが発熱をしていた。
ぐるりと室内を見渡すと山の写真よりキャンディーズとアグネス ラムのポスターが目立ち、なんだか駄菓子屋に足を踏み込んだようだった。
相棒が湧き水に冷やされた缶ビールを買ってきてくれて、プルタブを引くと今日の苦労を炭酸が吹き飛ばした。
なんかさ、俺たちも小屋慣れしたのかな?
だって今なんて飯くったらすぐ談話室に座るじゃん。はじめた頃なんかおこがましくて近寄らなかったもん。
少し思い帰ってみた。たしかに相棒の言葉には歴史があった。いつも部屋の隅っこでビールを飲み交わしたりしていたのが、隙間さえあればそこに座らせて貰い一期一会のよもやま話に談笑するようになっていたのだ。
見知らぬ人から日本酒を交わしながら、その地方の山々の話を聞くのが好きになった。
なかには知っている山もあれば初耳の山もある。勉強にもなるし、とても楽しそうに話される顔や言葉が大好きになった。
今日の行動不能もいつかは笑って話せるようになるのだろうか。
思い当たる原因は、幾つかは挙げていた。
歩けば健康に良いだろうと一日10,000歩したけど筋肉への疲労を解消してやらなかったこと。
暑さが続くようになると明け方に足裏が攣り、よく目覚めていた。
(これは熱中症の症状かも知れない)
飲み会も続いていたし、車中泊による寝不足も祟ったかも知れない。
一週間後には北アルプスを歩くので、それまでに修正点が見つかったのは僥倖だったのだろう。
ピークスのバックナンバーを広げていると、埼玉から来られたご夫婦が加わった。おなじドンドコ沢のコースから登り、地蔵岳から小屋に下りてきたそうだ。しかもCTは標準より短縮されていて、感嘆した。
僕は…と話すとそんな日もありますよ。誰にだって。目尻のシワを緩めて云ってくれた。
小屋仕事に手が空いたスタッフがこたつに一人二人と集まりはじめると、賑やかな宴が開かれていった。
今はまだ発電機が小屋を明るくしているけれども、19時30分には電源を切られるそうだ。
談話室も真っ暗になるの?埼玉のご主人がスタッフに尋ねた。
いいえ、ここは誰かが居る限りランプを灯しておくんですよ。
裸電球にぶら下がるランプがあった。よく見るとアルコールが浸してあり、灯るとさぞかしいい雰囲気になるだろう。高天原の小屋もランプの灯の下でひと時を過ごしたように。
相棒がこたつの燃料を質問した。
練炭やコークスではなくて、朝に火をおこした御木だと聞いた。
こんな時間にまで暖かいんですか?
えぇ、そうなんです。
また一人二人とこたつを埋めると、話は濃さを増してきた。顎髭を生やした若い男性が腰を下ろした。NHK BS番組、百名山のディレクターなのだそうで、番組取材撮影の為にスタッフと訪れているそうだ。この山域の取材は2度目との事で、見所を教えて貰ったりしていると、小屋のオーナーさんも談話室に訪れた。
70歳を過ぎたご年齢らしいがなかなかの体躯の持ち主で、昨日小屋に上がってきたらしい。
酒もお好きなようで、珍しいリカーを振舞っていただいた。
こんな酒が呑めるのは小屋の醍醐味だ。
今夜はあまり歓迎されない来客もあった。
ケーン、ケーンと森の中から声が聞こえた。
野生の鹿が現れるそうだ。人間に飛びかかることはしないのだが、小屋のまわりに咲くヤナギランを食べに来ているらしく、すぐにスタッフが何かを手にして森に向かった。
パン、パンと炸裂音が響き、声は聞こえなくなった。ロケット花火のような道具で追い返しているのだとか。
発電機が切られるとランプが灯った。
トタン屋根を撃つ雨粒の射撃が鳴り、またロケット花火の音が響いた。時計は10時をすこし回っていた。森に逃げ込む鹿のように毛布を頭まで覆った。
この雨が砂礫を濡らし歩きやすくしてくれるとありがたいと思った。



