「アイドルとしての自覚を持ってくれ」
反抗期の俺に健くんが言った一言。
アイドルとして劣等生だと思っていた。
天性のアイドルの健くん。
誰でも務まるわけじゃなく、いつでもファンの目線になって、何を望んで何ができるかを常に考えられる健くんだからできることでもある。
時には、傷ついて心すり減らす思いをすることもあるけど、それでも笑顔を絶やさずファンの前に立つ健くんには尊敬しかない。
アイドルは虚像。
始まりがあれば終わりもある。
有限の時をV6を好きな人たちと一緒に楽しむために全身全霊を尽くす健くん。
あの言葉は、20年以上一緒にやってきて、アイドルという立場に誇りをもっている健くんに言わせる言葉じゃなかった。
そんな健くんが今では愛おしくて、可愛くて、ほっとけない。
絶対守らなきゃって思うんだ。
それは、恋にも愛にも似た言いようのない感情だった。
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コンサート本番直前、俺は健くんと同じステージ袖へ向かう。
「あ、岡田ちょっと…」
健くんが、中途半端に立っていた衣装の襟を直してくれた。
両腕を俺の首の後ろへやる瞬間、
健くんのコロンの香りがふわっと鼻腔をくすぐる。
ちょっと甘くて上品な健くんの香り…
思わずスッと吸い込むと同時に、健くんを抱きしめた。
「ちょっ…岡田…?」
「ごめん…少しだけこのままでいて…」
突然の抱擁に戸惑い、健くんの腕が宙を彷徨う。
しかし間もなく、それは俺の背中にそっと添えられた。
健くんの首筋に顔を埋め、静かに高まっていく鼓動と温もりを感じる。
健くんの香りと共に深呼吸をして、鼓動を合わせる。
トク…トク…トク…
「チャージ完了。」
最後にギュっと強く抱きしめて健くんから離れる。
離れ難くて健くんの肘を掴むと、ふわっと笑顔を見せる健くん。
「お前、好きすぎるだろ。俺のこと。」
---好きだよ。
俺たちは、ステージへと向かった。