『沙林   偽りの王国』  帚木蓬生

大作でした。

オウム真理教による地下鉄サリン事件から3月20日で26年を迎えた。冒頭に

「本書をオウム真理教の1連の犯罪で命を絶たれた人たち、傷ついた方々、今なお後遺症に苦しむ人々に捧げる」

と綴られ、その3月20日に刊行されたこの作品は、主人公の名前だけを除くルポルタージュ作品だと思う。

作者はインタビューに答え、「誰かが、総合的、俯瞰的に総括しなければいけないと思った。これは『紙碑』です。」と述べている。
死刑執行されたことでこの事件が忘れ去られるようなことは絶対にあってはならない。

被害者、またその関係者はこの作品によって、あの時一体何がどのようになっていたのか、自分の身に何が起きたのか、それぞれが、もしかしたら大半の人が、この作品の中に自分を見つけられるのではないか、そんな気がします。
それほど、この作品は大量の日本、また海外の参考文献と緻密、専門的医学的分析に基づき完成されています。
帚木さんは、この作品を書くことによって、被害者一人一人に焦点を当て、その命にできる限りの尊厳の気持ちを与え、失われた生命な鎮魂を願う、おそらくはそれが、この本の目的ではないかと思うのです。

ネタバレをするのは、あまりにも失礼なくらいの大変な作業によって完成された作品です。帚木さんの医師として、作家としての使命感と、誠意、熱意に、私は敬意の気持ちをお伝えしたいと思います。

さて、その作品について、
主人公の九大神経内科の教授が、前年に偶然にも提出した論文に、今ニュースに伝えられている松本サリン事件の被害者の様子に共通点を見つけたところから始まるのですが、

実在する
九州大学医学部附属病院神経内科教授の 井上尚英先生であると突き止めました。
その先生と信州大学医学部柳澤先生から、
あの有名な日野原重明院長の聖路加国際病院へと、その論文(サリン中毒の症例と治療)がFAXで送られることになります。
聖路加国際病院は、日野原重明先生が病院を作る時の方針で、大量に患者が発生しても機能できる病院として設計されていて、院内のいたるところに酸素供給口などが埋め込まれていて、これが640人の被害者の治療を可能にしたのです。

あと、私なりに目次的なものを作ってみました。
・化学兵器の歴史  旧日本軍731部隊の敗戦後の驚くべき米国による隠匿
この時の部隊と関東軍の橋渡しを行ったA級戦犯がなんと!オリン〇ック委員会の委員長になっていた!  これも事実です。その時の毒ガスを作った人間はみんな輝く未来が。。

・『海と毒薬』で有名な九州大学医学部の米兵への生体実験は、関わった人全員死刑か終身刑、看護師まで5~26年の重労働。この違い!

・麻原彰晃の生い立ち
・宗教の恐るべき力
・宗教と倫理観   旧約聖書の中の差別
・フリージャーナリスト江川紹子さんのあったホスゲン攻撃
・長野県警の誤認による松本サリン事件の第1通報者の被害と謝罪なし
・縦割り警察機関の無能と怠惰が呼んだ地下鉄サリン、これは防げた悲劇
・麻原の醜い裁判と他の信者の違い
・拙速の死刑執行   改元に忖度!
・麻原死刑の後も続くオウム真理教
・アメリカの名誉教授による名誉欲からの愚行(死刑囚土谷正美に15回面会しそれを論文に発表、公開しないことを九大教授に確約も海外でコピーで発表、なんと!VXガスの合成法)  これはほんとに驚き呆れました。どこまで欲深いの!オマケにこのトゥー教授は、日本で本まで出してる。厚かましいにも程がある。
・作者後記   これも胸を打たれました。

本編のあとの参考文献の量!!
論文を読ませてもらった感じです。

また、私のメモが9ページに及び、投稿するのにまとめるのにも苦労しました。

それぞれの項目、是非読まれてご確認ください。