■洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年 | 布施 英利

 

ヒトはなぜ、絵を描くのか。

西洋美術史では、一次視覚(目の視覚)と二次視覚(脳の視覚)が交互に現れるという、筆者の視点が興味深かったです。

 

たとえばエジプト美術の壁画では、横向きの顔と正面を向いた目と身体が描かれていたりするのですが、これは目にインプットされた情報そのものではなくて、そのあとに脳内で処理された情報、つまりは横から見たものと正面から見たものが脳内で混ぜ合わされたもので、二次視覚(脳の視覚)の美術だということです。

 

 

ちなみに似たような話が、先日読み終えたばかりの「ヘンな日本美術史 | 山口 晃」にも書かれていました。たとえば雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」では、慧可の横顔が、顔の輪郭は横向きなのですが、目は正面から見たように描かれていて、耳は後ろから見たように描かれているように見えます。

 

耳はさておき、人の横顔を絵に描くときに目が正面を向いてしまうのは、昔の日本人にとっては自然なことで、外国人に指摘されてはじめて、「あれ、本当だ!」と気づいたのだとか。

 

日本の漫画やアニメでも顕著な気がします。

特にアニメで、横向きの顔に正面から見た口が描かれていたりとか、ときどき話題になっています。静止画でじっくり見ているとさすがに違和感を感じる絵もあるようですが、動くアニメとして見た場合には、特に日本人の場合には割と自然に見えてしまうのかもしれません。

 

 

それから、絵が先に生まれたのか、人が先に生まれたのかという視点も面白かったです。

 

先に人類が生まれて、後から絵が生まれたのではなくて、先に絵がすでに存在していて、だからこそ、後から人類が生まれたとも言えるのかもしれません。

 

つまりは、岩の凹凸や夜空に浮かぶ無数の星の中に「絵」を発見しはじめた者たちがいて、彼らこそが人類の起源なのだということでしょうか。

そして、当時の人々は、岩の凹凸に絵を見出して真っ暗な洞窟内で壁画を描き、無数の星の中に星座たちの物語を見出していたのかもしれません。