人物の写真を見ると、
この人はどんな人なんだろう?と
想いをめぐらせることがある。
写真に物語をつけたという
珍しい本を見つけた。
大竹昭子さんの
「いつもだれかが見ている」
オランダ在住ドイツ人写真家と
日本人グラフィックデザイナーからの
1通のメールが始まりだった。
2人の写真に、
そこから連想される物語を書いてほしい
という依頼だった。
写真と物語は
2021年に資生堂ギャラリーで展示された。
その後、本を出すことになり、
その本というが「いつもだれかが見ている」
14の写真から広がる
せつなく、謎めいた14の小説
1つ1つの話はとても短いから
読もうと思えば1冊を
一気読みできる。
それなのに、1つの物語の中身が濃くて
その世界観から出られずにいた。
なんとも不思議な読書体験だった。
著者の言葉選びは絶妙で、
ありきたりな出来事や動作などが
魔法にかけられたような文章になる。
打ったり消したりを繰り返すうちに、
この道でよさそうだという手応えがやって来る。
そうなれば浮かんでくる言葉が
手の動きを誘導するのにただついていけばよい。
滞っていたものが流れ出したように
言葉にリズムが生まれ、
文字が次々と画面を埋めていった。
作家の「なかなか書けない」
という苦悩を、これほどまでに
巧みに表現できるなんて。
この本は
年齢を重ねていくなかで
何度も読み返したいと思う。