サマソニ初回をぶっ壊した帝王 ― JB伝説
2000年夏。まだ産声を上げたばかりのサマーソニック(サマソニ)は、山梨の富士急ハイランド・大阪の2会場同時開催という大規模フェスながら、手探り感も漂う1回目だった。僕はその会場にいた。
記念すべき初年度のヘッドライナーは、当時勢いに乗っていたジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、通称ジョンスペ。そしてその直前にセカンドヘッドライナーとして登場したのが、ソウルの帝王にしてファンクのゴッドファーザー、ジェームス・ブラウン(以下JB)だった。
日本の一般的な知名度では、JBといえば「ゲロッパ!」のシャウトでカップヌードルのCMに登場した“ゲロッパおじさん”。コミカルなイメージで親しまれていたが、音楽的には20世紀のポピュラー音楽を根底から変えた存在。Wikiに並ぶ「グラミー賞受賞」「ロックの殿堂入り」などの肩書きも伊達ではない。そんな大御所が、サマソニの夜を狂乱に導いた。
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ペットボトル事件 ― 説教タイム開幕
JBの登場に、会場はざわついた。ところが演奏が始まる前、観客席から投げられたペットボトルが彼に直撃してしまう。
普通ならスタッフが処理して終わりだろう。しかし相手はJB。マイクを握ったまま、延々15分もの“説教ショー”が始まった。
「リスペクト!リスペクト!俺に物を投げるとは何事や!」(※イメージ)
観客はポカン。スタッフは冷や汗。私はというと「いや、ジョンスペが見たくて来たんだが……」と複雑な心境。
だがJBにとってはこれすらも演出の一部。ひとしきり怒鳴り散らしたあと、ステージを一度降り、再び颯爽と登場した瞬間には観客も喝采。説教から復帰まで、すべてが“ショウ”だった。
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終わらないJB、削られるジョンスペ
本来の持ち時間は1時間。だがJBは曲を終えるごとに「Hit me!」「もう一曲!」と合図を出し続ける。バンドも止められない。マネージャーが袖で「Stop!」と叫んでも、帝王は無視。1時間で終わりなのに「そんなの聞いていない。俺は俺のショーをやる」と続行。
結果、2時間ノンストップ。
観客はJBの圧倒的なショーマンシップに酔いしれながらも、僕は時計を見て焦っていた。「いや、ジョンスペまだ出てないやん!」と。
結局、トリを飾るはずのジョンスペに残された時間はわずか30分。本来ヘッドライナーとして堂々とやるはずが、JBの大暴走の尻拭いをさせられる形になった。
だがジョンスペは「JBはヒーローだから問題ない」と応じたという。そこにリスペクトがあった。
観客の僕は後に「いやいや、問題あるよ!」とのちに心の中で突っ込んでいたけれど。
それでもライブ出来たのは40分。ヘッドライナーではあまりに短すぎる時間だ(^^;
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大阪では強制終了 ― 電源カット伝説
翌日の大阪公演。スタッフは東京での“時間泥棒事件”を踏まえ、「今度は絶対に時間をオーバーさせるな」とオーガナイザーは厳命していた。
しかしJBは大阪でも同じ流れ。ペットボトルこそ飛んでこなかったが、予定時間を過ぎても止まらない。
そこで下された苦渋の決断は、なんと電源カット。
ブチッと音が止まり、JBは一瞬「What!?」と驚いたが、音が鳴らなければどうしようもない。渋々ステージを降りていった。
帝王を止める唯一の方法が「コンセントを抜く」って、なんとも漫画みたいな結末だ。
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ゲロッパおじさんの真骨頂
当時、日本でのJBは「ゲロッパおじさん」として親しまれていた。CMで踊る姿はお茶の間向けにデフォルメされたコミカルさで、若い世代にとっては“笑える大御所”だった。
だが実際のステージ上のJBは別物。
シャウト、ステップ、バックバンドへの鋭い指示。2時間全力でやり切っても声は衰えず、汗だくでファンクを叩き込む姿は、やはり“帝王”そのものだった。
「時間で区切る音楽なんてありえない。魂が尽きるまでやる」――それがJBの哲学だったのかもしれない。
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茶化しとリスペクトの狭間で
客目線では「ジョンスペを観たかったのにJBに2時間奪われた」という恨み節もある。説教タイムも長いし、押しのけられたジョンスペが気の毒でならない。
正直、観客としては「頼むから時間通りにやってくれよ!」と叫びたくなる瞬間もあった。
だがそれと同時に、やっぱりリスペクトもある。JBは貧困と少年院を経て、這い上がって世界の頂点に立った男。彼にとってステージは、生き様そのもの。だからこそ、あの暴走すら“音楽の一部”だったのだろう。
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Wikiに載らない伝説
Wikipediaには「グラミー賞受賞」「ロックの殿堂入り」など栄光の記録がびっしり並ぶ。しかしサマソニでの“説教タイム”や“電源カット事件”は書かれていない。
だが、こうした人間臭いエピソードこそが、本当の意味でのJB伝説なのだ。
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結論:帝王は止められない
サマソニ初回を観た人にとって、JBは忘れられない存在になった。
僕のように「ジョンスペを観に来たのに!」と嘆いた人も、最後には「まぁ、JBだから仕方ない」と苦笑したはずだ。
JBは、ステージ上では誰にも止められない。唯一の例外が、電源を抜くという荒業だった。
茶化せば「時間を守れないゲロッパおじさん」、リスペクトすれば「魂で音楽をやり抜く帝王」。
その矛盾こそが、本物のスターの証だったのだ。